[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

光合成反応中枢にあるたんぱく質複合体の立体構造解明―光合成生物の環境適応進化の謎に迫る:岡山大学/筑波大学ほか

(2019年10月30日発表)

 岡山大学、筑波大学、神戸大学などの共同研究グループは10月30日、光合成反応の中心的な役割を担っているたんぱく質複合体のうち、これまで詳細な構造が不明だった四量体で存在するたんぱく質複合体の立体構造を解明したと発表した。

 この構造決定と、ピコ・フェムト秒の時間分解能を持つ蛍光分析により、光合成生物が多様な環境に応じて四量体の形態を変化させてきた仕組みが明らかになったという。

 光合成は、太陽からの光エネルギーを使って空気中の二酸化炭素と水から炭水化物や酸素を作り出す反応。この反応の中心的な役割を担っているのが、光化学系Ⅰ、光化学系Ⅱと名付けられた、たんぱく質複合体。

 光化学系Ⅱは、水から酸素を作り出す機能を持ち、二量体を形作っている。

 光化学系Ⅰは、光化学系Ⅱが水から酸素を作り出す過程で放出される電子を利用して、電子伝達体であるNADP+(酸化型)をNADPH(還元型)へと還元し、二酸化炭素を炭水化物に変換するための化学エネルギーを生み出す。

 この光化学系Ⅰは、シアノバクテリアの中では主に三量体で働くことが知られているが、最近、一部のシアノバクテリアの中には四量体の状態で機能する光化学系Ⅰを持っていることが発見された。その詳細な構造や四量体を形成する利点は解き明かされていなかったことから、研究グループは今回この解明に取り組んだ。

 研究では、光化学系Ⅰ四量体を持つシアノバクテリアから四量体を精製し、試料を冷凍下で観察するクライオ電子顕微鏡を使って3.3Åの解像度で立体構造を解明した。

 解析の結果、四量体は単量体同士が2つの異なる結合面を持って形成されており、特徴的な楕円形をしていること、それにより、集光色素も単量体や三量体にはない変わった配置を持っていることが分かった。

 時間分解蛍光分析法を用いその理由を調べたところ、光化学系Ⅰ四量体は強い光エネルギーを効率よく逃す働きをしていることが分かった。

 これらの結果から、光化学系Ⅰ四量体が持つ特徴的な色素の配置は、強い光照射の条件下で余剰の光エネルギーを逸散させる重要な役割を持っており、光の強さに応じて光化学系Ⅰ四量体の量を調節していることが明らかになったという。

 今回の研究により、光合成生物の環境適応の謎を紐解く有用な知見が得られたとしている。