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メンデルの「優性の法則」の謎を解く―新たな仕組みを発見、植物育種へ応用期待される:奈良先端科学技術大学院大学/農業・食品産業技術総合研究機構ほか

(2016年12月23日発表)

 奈良先端科学技術大学院大学と(国)農業・食品産業技術総合研究機構などの共同研究グループは12月23日、親から子へと遺伝子が受け継がれる遺伝現象についての“バイブル”ともいえるメンデルの「優性の法則」でこれまで不明だった仕組みを解明したと発表した。

 共同研究を行ったのは、両機関と東北大学、大阪教育大学、神戸大学、東京大学のグループ。

 通常の生物は、双方の親から一組ずつ遺伝子を受け継ぎ、双方の親から異なる遺伝子を受け継ぐと多くの場合どちらか一方の遺伝子に含まれた情報の形質(性質や特徴)が現れ、もう片方の形質は現れず、現れてくる方を「優性遺伝子」、現れない方を「劣性遺伝子」という。

 この優性の法則が遺伝学の祖、グレゴール・ヨハン・メンデルによって報告されたのは、1865年。彼は、エンドウに背の高いものと低いものがあることに着目し、背の高いものの種子を集めて播くと必ず背の高くなる種子が得られ、低いものからは必ず背が低くなる種子が採れることを数年の栽培で見つけ法則にした。

 しかし、劣性遺伝子の性質がなぜ現れないのかその詳しいメカニズムは発表から150年余り経っている現在もメンデルの優性の法則の謎として残されている。

 これまで劣性遺伝子は、機能を失っているために性質が現れないのだと考えられてきたが、共同研究グループは優性の遺伝子から作られる小さな低分子RNA(リボ核酸)が劣性の遺伝子の働きを阻害するという全く異なる新たな仕組みを発見した。

 研究グループは、ナタネを使って優性遺伝子と劣性遺伝子の間の違いを詳しく調べた。その結果、優性遺伝子から作られる24個の塩基で構成される低分子RNAが劣性遺伝子にカギをかけるように働きを阻害していることが分かった。

 アブラナ科植物で発見したこの仕組みは、動植物に広く存在する可能性があると研究グループは見ており、「今回の研究は、遺伝子の優劣関係を制御する新たな仕組みを明らかにしただけでなく、有用な遺伝子を働かせたり、有害な遺伝子の働きを抑えたりする技術へと結びつく可能性があり、植物育種への応用が期待できる」といっている。