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ショウジョウバエを使って痛みの遺伝子を多数発見―新しい鎮痛薬の開発に役立つ可能性を秘める:筑波大学

(2016年6月24日発表)

 筑波大学は6月24日、ショウジョウバエの一種でコバエとも呼ばれるキイロショウジョウバエを研究材料に使って痛みを伝える痛覚神経の新しい遺伝子を多数発見したと発表した。見つけた遺伝子の多くは、人にも存在することから人間の痛覚神経機能にも関わっている可能性が高いと同大学は見ており、新しい鎮痛薬の開発に役立つことが期待される。

 キイロショウジョウバエは、3千以上の種が知られているショウジョウバエの一つ。体長は3mm前後で、世界中の研究者が生物学の様々な分野の研究でモデル生物として使っている。今回の研究は、そのキイロショウジョウバエを利用した大規模な遺伝子探索でこれまで知られていなかった痛みを伝える痛覚神経の機能に関わる遺伝子を多数発見することに成功したもの。

 “トカゲの尻尾切り”と諺でいうが、トカゲは痛みを伝える痛覚神経を持たないことから窮地に陥ると自分の尻尾を切り捨てて逃げることができる。それに対し、人間をはじめとする高等生物は、痛みを感じるとその刺激を検出する痛覚神経細胞が働き危険からの回避反応を起こす。ところが、傷や炎症といった痛みが生じる原因が無いにもかかわらず慢性的に痛みが生じる病気がある。その病気は、慢性疼痛疾患と呼ばれ、そうした慢性的な痛みに苦しんでいる人は世界の人口の20%以上にも上ると推定されている。

 しかし、痛覚神経の機能に関わる遺伝子を効率的に探索することは容易でなく、その大規模な探索はこれまであまり行われていない。

 研究では、レーザー微小解剖法という手法を使って、キイロショウジョウバエの幼虫の表皮から痛覚神経細胞体と痛覚に関係がない感覚神経細胞体とを収集。それぞれの細胞体から抽出したRNA(リボ核酸)を解析して1万8千の遺伝子を調べ、痛覚神経機能に関わる36の新たな遺伝子を発見した。その内の20は、人間を含む哺乳類にも存在する遺伝子であることが分かったという。

 痛覚神経の異常な活動は、慢性疼痛疾患の発症原因の一つと考えられている。今回見つかった遺伝子がどのように痛覚神経の機能調節に関わっているかそのメカニズムを解明すれば、それを利用した慢性疼痛疾患の治療や予防に役立つ新薬をつくることが可能になるかもしれないと筑波大では見ている。