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細菌の遺伝子がホヤで働く仕組み解明―生物進化のナゾに新視点:筑波大学

(2016年12月21日発表)

 筑波大学は12月21日、東京大学など4大学と共同で海の珍味として知られる動物「ホヤ」が進化の過程でセルロースを含む丈夫な表皮をどのように獲得したかを解明したと発表した。セルロースの合成遺伝子を細菌から得たことは従来から知られていたが、今回初めてその遺伝子が表皮で働くのに欠かせない仕組みを突き止めた。生物進化を新しい視点から解明する道がひらけると期待している。

 筑波大生命環境系の笹倉靖徳教授の研究グループが、東大の中井謙太教授、首都大学東京の西駕秀俊教授、広島大学の山本卓教授、高知大学の藤原滋樹教授らと共同で解明した。

 セルロースは植物や細菌の細胞壁を構成する主要な高分子で、紙の原料としてよく知られている。動物は基本的にセルロース合成酵素能力を持たないが、ホヤだけがなぜ例外的に合成できるのかがナゾだった。

 今回の研究では、ホヤの一種「カタユウレイボヤ」を用い、放線菌から獲得したセルロース合成酵素遺伝子がどのような仕組みによって表皮内で発現し(働き)始めるのかを調べた。その結果、合成酵素遺伝子は「AP-2」と呼ばれるたんぱく質の働きによってセルロースの合成を始めることがわかった。さらに、AP-2たんぱく質をつくる遺伝子がセルロース合成酵素遺伝子と結合しやすい構造、つまり塩基配列(遺伝暗号)を持っていることを突き止め、実験的にも確認した。

 AP-2はホヤと近縁関係にある脊椎動物でも、表皮の形成に重要な役割を果たすことが知られている。そのため研究グループは、今回の研究結果から、ホヤの祖先は放線菌からセルロース合成酵素遺伝子を獲得する以前からAP-2を持っており、しかもその遺伝子が働きやすい条件がホヤの表皮内に事前に用意されていたと研究グループはみている。

 遺伝子を他の生物から獲得する水平伝搬は生物進化を引き起こす要因の一つと考えられている。ただ、これまでは一般に他の生物から獲得した遺伝子はうまく働かず、進化にはなかなかつながらないと考えられてきた。

 今回の成果について、研究グループは「細菌やホヤのように系統的に離れた生物間であっても、組み合わせによっては獲得した遺伝子が容易に発現し、水平伝搬を成功に導くことが可能である」と、科学的な意義を強調している。