生分解性プラスチック製品の分解を酵素で加速―マルチフィルムをそのまま畑にスキ込み、効果を実証:農業・食品産業技術総合研究機構
(2023年7月3日発表)
散布処理翌日(24時間後)のマルチフィルムの表面。散布処理に使用したPaEの濃度(ユニットUで表示)が高いほどマルチフィルム表面にミクロレベルで亀裂が生じる。ユニット(U)は酵素の力価を示す。ここでは生分解性プラスチックPBSAエマルジョンの660nmにおける吸光度を1下げる酵素の量を1Uとしている。©農研機構
(国)農業・食品産業技術総合研究機構は7月3日、農業で使われている耐久性の高い生分解性マルチフィルムを、畑に敷いたままで分解を加速させる実践的な方法を見つけ、実証したと発表した。酵素液を散布するとその翌日には壊れやすくなり、確実に分解が進んだ。農作業の過程で必要とされる時にいつでも分解を加速でき、マルチフィルム処理の低減やゴミの削減に役立つとみている。
生分解性プラスチックは、分解すると最終的に水と二酸化炭素になる高分子化合物をさす。野菜畑の表面を覆う農業用資材として、水分や地温、肥料の保持、雑草や病害虫の防除に使われてきた。
最近の生分解性プラスチックには、これまで以上に柔軟性や強度、耐久性が求められるようになり、複数のプラスチックを混合したマルチフィルムが市販されている。
様々な環境下で多様な野菜を栽培するには利便性を高め、農作業期間中だけでも壊れにくい耐久性が求められる。最近は分解がより遅いポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)を混合した製品や、ポリ乳酸を添加した製品などが増えている。
利便性が高い難分解性のマルチフィルムは、使用後の回収作業が重労働となり、土が付着すると再利用も困難になるなどの問題を抱えていた。
農研機構は、こうした相反する性質を持ったマルチフィルムの分解対策に乗り出した。
イネの葉や籾(もみ)などにすみついているシュードザイマ属の酵母菌(PaE)が、生分解性プラスチックを分解することを発見した。また産総研・機能化学研究部門との共同実験で、PaE溶液に浸したところ高分子結合がバラバラに切断され低分子化することを確認した。
市販の生分解性マルチフィルムは、様々なプラスチック素材が混合されているため分解がより難しいと思われたが、PaE液に浸したところ数時間以内に分解されて薄くなり、重量が減った。
畑で使い終えた市販のマルチフィルムの表面に、PaE液を振りかけただけで翌日には強度が下がった。そのまま畑の内部に鋤(す)き込んでも、分解された断片が目立たなくなり、総重量も減少した。
こうしたマルチフィルムの性能評価は、これまで目視だけで判断してきた。農研機構は画像解析を使って、穴や亀裂の面積、長さなどを数値化して変化を捉える客観的な評価法を開発した。
素材の割合の異なる複数の市販マルチプラスチックについても、今回の分解酵素を使うことで農家がいつでも分解処理ができるようになり、最終的には土に戻して循環型社会に貢献する見通しがついた。
今後、民間企業などと共同研究を実施し、分解酵素の量産化や組み合わせて使う新たな農業資材の開発、フィルムを畑に埋めた後の分解の検証などを進めていくことにしている。