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カキ(柿)の受粉に野生のコマルハナバチが大きく貢献―北から南まで全国規模の調査を行い明らかに:農業・食品産業技術総合研究機構ほか

(2022年7月1日発表)

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カキ雌花に訪花するコマルハナバチ
(提供:農研機構 農業環境研究部門)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構などの共同研究グループは7月1日、カキの受粉に野生の昆虫が大きく貢献していることが全国規模の調査で分かったと発表した。

 植物の花粉を運んで受粉の手助けをする昆虫は「花粉媒介昆虫」と呼ばれ、野生の昆虫が果樹などの受粉に役立っていることは知られている。しかし、その実態には不明な点が多くあり、今回カキの受粉に「コマルハナバチ」という名の野生昆虫が北から南まで全国各地で花粉媒介昆虫として大きく貢献していることを見つけた。共同研究には、島根県農業技術センター、(国)森林総合研究所が参加した。

 世界の主要な農作物の75%以上が昆虫や鳥類といった花粉の“運び屋”ともいえる花粉媒介生物の働きに依存しているといわれ、花粉を運ぶ昆虫などが介在する農作物の生産額は2015年時点で約4,700億円に相当すると農研機構は試算している。

 しかし、果樹・果菜類の栽培での野生の昆虫の役割や効果などについてはまだ不明な点が多く、そのため十分に活用されていないといわれ、有用な野生の花粉媒介昆虫の働きの解明が求められている。

 カキは、雄花から運ばれた花粉の受粉で種子が形成され、着果(果実ができること)が起こる。そのため、カキの栽培では、着果を安定化させると共に着果率をアップするのに巣箱で飼われている昆虫(飼養昆虫)のセイヨウミツバチが花粉媒介昆虫として多くのカキ園で導入されている。

 それに対し、今回見つけたコマルハナバチは、山地から市街地に至るまで広く生息している大きさが十数mmのミツバチ科の野生昆虫。

 研究は、北の福島県から南の熊本県までカキの生産量が多い10県を選び、それぞれのカキ園で作られている甘ガキの代表的品種として知られる「富有柿(ふゆうがき)」を対象にしてコマルハナバチとセイヨウミツバチの花粉媒介昆虫としての働きを比較し違いを見るという方法で行った。

 すると、コマルハナバチとセイヨウミツバチの花粉媒介効率は同等であることが判明、野生のコマルハナバチが東北地方から九州地方まで全国のカキ園の富有柿作りに大きく関わっていることが分かった。

 研究グループは、今回得られた結果から「コマルハナバチの頻繁な訪花(ほうか)があればセイヨウミツバチの巣箱を導入しなくても十分な着果率が期待できることが分かった」といっており、野生の花粉媒介昆虫を利用した新しい省力的なカキの栽培が行えるようになると見ている。