トンネル磁気抵抗素子―従来の性能限界を大幅更新:物質・材料研究機構
(2023年4月13日発表)
(国)物質・材料研究機構は4月13日、高性能な磁気センサーや磁気抵抗メモリーの実現に欠かせないトンネル磁気抵抗素子が持つ従来の性能限界を大幅に更新したと発表した。性能の指標となる室温でのトンネル磁気抵抗比631%を達成、従来の最高値だった604%を15年ぶりに更新した。医療用超高感度磁気センサーや超大容量磁気抵抗メモリーの開発に道がひらけると期待している。
トンネル磁気抵抗素子は、二つの磁性層の間に薄い絶縁層を挟んだ構造を持ち、磁性層の磁化の方向が平行か反平行かで異なる抵抗を示す。この性質を利用して電源を切っても情報が消えない省電力磁気抵抗メモリーとして利用されている。
物材研は今回、磁性層と絶縁層の界面を精密に制御することで、従来のトンネル磁気抵抗素子が持つ性能限界を突破したという。具体的には、①酸化マグネシウムの単結晶を薄膜の基板として用い、②磁性層はコバルト鉄合金を材料としてスパッタリング法で作製、③絶縁層は酸化マグネシウムを電子線蒸着法で作製、などの工夫をした。
この結果、室温でのトンネル磁気抵抗比の従来記録を大きく超えることに成功した。室温でのトンネル磁気抵抗比を従来の限界を超えて大きくできたことで、磁気センサーの大幅な高感度化に道がひらかれるという。
今回の成果について、物材研は「心磁場・脳磁場の検出のための超高感度磁気センサーや車載向け高感度センサーなどへの展開が期待される」と話している。さらに、「今までのトンネル磁気抵抗比の水準では不可能だった新しい磁気抵抗メモリー技術の開拓も期待される」として、パソコンやスマートホンなどで広く利用される大容量メモリーへの展開も予想されるとみている。