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リチウムイオン電池に新技術―長寿命、高性能化に道:産業技術総合研究所ほか

(2022年1月25日発表)

 (国)産業技術総合研究所と(株)日本ゼオンは1月25日、電気自動車の中核技術とされるリチウムイオン電池の性能を飛躍的に高める新技術を開発したと発表した。リチウム金属にカーボンナノチューブを組み合わせた負極材料を開発、リチウム金属単独の電極に比べ5倍の電流密度、20倍以上の長寿命化を実現した。次世代電池の実用化を加速すると期待している。

 カーボンナノチューブは炭素原子だけで構成される直径0.4~50 nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)、長さ1~数十μm(マイクロメートル、1µmは100万分の1m )のチューブ状分子。新技術では産総研が独自に開発、日本ゼオンが量産化に成功したシート状のカーボンナノチューブを負極材料に利用した。

 具体的には、電池の正極と負極を分けるセパレーターとリチウム金属電極の間にカーボンナノチューブのシートを挟む構造を採用した。この結果、リチウムが充放電時に枝のように不均一な結晶成長をして電池の正極と負極を分けるセパレーターを破壊、電池の寿命を短くしてしまうという問題点を解決した。

 これまでも、一般にはグラファイト(黒鉛)などが使われている負極材料としてリチウム金属が利用できれば、より高密度のエネルギー貯蔵が可能とみられていた。ただ、リチウムが枝状の結晶として成長し、セパレーターを破壊してしまうのを防ぐことが難しく、実用化は困難とされていた。この問題を、新技術ではセパレーターとリチウム金属電極の間にカーボンナノチューブのシートを挟むことで解消した。

 実験では、電流密度1cm2当たり10mA(ミリアンペア)での充放電が1,000時間経過しても、新技術を用いたリチウムイオン電池は安定した特性を示すことが分かった。一方、リチウム金属を単独で電極に用いた場合には、約55時間後に両電極間の電圧が急激に上がるなど、短時間で電極特性が劣化した。

 今回の成果について、研究グループは「リチウム金属電極を高エネルギー密度・大容量の充放電に安定的に利用できる」として、今後はカーボンナノチューブシートの実用化と高エネルギー密度、大容量、長寿命の蓄電池開発を目指す。