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仮想現実による医療放射線教育は、触覚やコミュニケーション面で習熟不足―患者への声かけや接遇のスキルを高める必要がある:筑波大学

(2023年4月14日発表)

 筑波大学システム情報系の黒田 嘉宏教授、加藤 健吾・博士後期課程2年生の研究グループは4月14日、VR(仮想現実)を使った医療放射線教育の習熟度を調査し、撮影のための触診や患者とのコミュニケーション面で十分な効果が得られなかったとの成果をまとめ発表した。今後はこれらの問題点を踏まえVR機器の改善と教育システムの練り直しが必要としている。

 ゲームやビジネスなどに導入されているVR技術が、医療用教育にも導入が始まっている。特に医療用放射線技師の教育では、VRは直接放射線機器を使わないことから学生の被ばくの心配がない利点がある。仮想空間内で体位を整える訓練や、訓練状況を反映した撮影画像の模擬訓練が可能で、画期的学習法になるとも期待されている。

 これまでの「実機による教育」は実際の臨床に近い利点がある反面、人体に被ばくの心配がある撮影はできない。「VR訓練」は時間や場所の制約がなく、自己学習が可能で、仮想空間で多様な患者モデルや状況などを作り出せる利点がある。

 研究グループは、診療放射線技師養成学校の学生30人を、VR教育システムを使うグループと従来の実機を使う2つのグループに分け、約1時間の訓練を実施した。

 X線撮影で必要な12の技術項目を設定し、教育による双方の習熟度の違いを、教員が4段階(0〜3点)で評価した。

その結果、VR訓練法では患者の骨格位置を用いた「受像面の位置合わせ」や患者への「声かけ」、「接遇」項目などのスキルが明確に低下していることが分かった。

 仮想空間では、触診して骨格を確認するようなことが難しい。また「声かけ」や「接遇」項目の低下は、患者とのコミュニケーションが欠けたためと考えられる。

 今回の調査を参考に、触診やコミュニケーションなどの技術的課題について改善し、より効果的なVR教育システムを開発する必要があるとしている。