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熱帯雨林の葉脈構造と機能明らかに―100を超す樹種を分析:国際農林水産業研究センターほか

(2023年3月8日発表)

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マレーシアの熱帯雨林 ©国際農研

 (国)国際農林水産業研究センター(国際農研)は3月8日、高知大学、マレーシアのサラワク森林局と共同で、熱帯雨林を形成している樹木の葉脈(ようみゃく)を分析、マレーシア熱帯雨林の100を超す樹種の光合成(こうごうせい)機能を解明したと発表した。樹木の葉脈構造が葉の丈夫さと光合成能力に密接に関係していることが分かったという。熱帯雨林は、自然界の広大なCO₂吸収源であり、その効率的な植林などに役立つものと期待される。

 東南アジア一帯に拡がる熱帯雨林は、光合成で大気中のCO₂を吸収すると共に酸素を発生させながら炭素を蓄えている。ところが、経済発展に伴う森林開発や焼き畑農業などにより伐採、劣化が進み、FAO(国連食糧農業機関)の発表によると毎年70万ha(ヘクタール)以上もの森林が減少している

 伐採や劣化した熱帯雨林の跡地は、熱帯の強烈な太陽光を浴びて強いストレスを受けるため回復にはその環境に適した植樹が必要で、光合成などの機能的な能力を一種ずつ検証する必要があるが、光合成能力の測定に高価な機械が必要なことなどから現状はというと特性を十分把握しないままの植林が行われている。

 こうしたことから国際農研は、熱帯林樹木の環境への適応能力を評価し、植林地の環境に適した造林技術を実現する研究に取り組んでおり、今回それに必要な熱帯雨林の葉脈構造とその機能の解明に取り組んだ。

 葉脈とは、人間でいえば血管にあたる葉の中を通っている水分や養分を運ぶ管のこと。植物の葉には、光にかざすとその葉脈がはっきりと見える「異圧葉(いあつよう)」と呼ばれるものと、葉脈の見えにくい「等圧葉(とうあつよう)」とがあり樹種によりそれが決まっている。

 更に、「異圧葉」は、丈夫で光が透過しやすく光合成能力が高い。

 

異圧葉(左)と等圧葉(右) 顕微鏡で観察した葉脈と葉の断面。黒い矢印は維管束の位置、異圧葉の白い矢印は維管束鞘延長部という透明な繊維質の細胞でできた組織。 ©国際農研

 

 そこで、研究グループは、マレーシアの熱帯雨林に生育する100樹種以上の葉の光合成能力と丈夫さの関係性を分析した。

 採取した100種類以上の葉脈の判定は、肉眼による簡易判別に加え、葉の断面を顕微鏡で観察した。葉の丈夫さは、葉に金属の棒を押し当てて貫通するのに要した力を調べた。

 最大のテーマの光合成能力は、光合成測定装置を使って葉のCO₂吸収速度を測定することで評価した。

 その結果、①葉の丈夫さと光合成速度は、樹種に関係なく木の高さと共に増加し、「異圧葉」の方が「等圧葉」より丈夫で光合成も高い、②樹高が40mを超すような高い木の多くは、「異圧葉」を持つ、③高さが10m以下の低木樹の多くは、「等圧葉」を持つ、④高さの高い木は、丈夫な「異圧葉」を持つことで強風や他の動物・昆虫の多い環境で葉を守って高い光合成を行っている、などが分かったという。

 研究グループは、今後更に葉脈構造の異なる樹種を様々な環境に植林して、樹木の成長や生存がどのように異なるのかを検証していくといっている。