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高エネルギー密度なリチウム空気電池の劣化機構を解明―負極に保護膜を導入しサイクル寿命を伸ばすことに成功:物質・材料研究機構ほか

(2023年1月31日発表)

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厚み6μm の固体電解質膜。スケールバー:1cm 
©物質・材料研究機構

 (国)物質・材料研究機構とソフトバンク(株)、(株)オハラの共同研究グループは1月31日、重量当たりのエネルギー密度が高いリチウム空気電池の劣化反応機構を解明し、負極に保護膜を導入することでサイクル寿命を大幅に向上させることに成功したと発表した。実用化開発の促進が期待されるという。

 リチウム空気電池は、理論重量エネルギー密度が現行のリチウムイオン電池の数倍にも達することから「究極の二次電池」とも呼ばれ、ドローンやIoT機器をはじめ電気自動車、通信基地、蓄電システムなどへの広い応用が期待されている。

 正極の活物質として空気中の酸素、負極の活物質として金属リチウムを用いて充放電反応させる仕組みで、正極の多孔性カーボン膜と負極の金属リチウム箔、両極を隔てるセパレータとを積層した構造になっている。

 研究グループはこれまでに、現行のリチウムイオン電池の重量エネルギー密度200Wh/kg程度を大きく上回る500Wh/kg級リチウム空気電池を開発し、室温での充放電反応を実現した。しかし、可能な充放電の回数を示すサイクル寿命は10回以下で、この改善、向上が課題となっていた。

 今回、研究グループは各種の先端分析手法を用いて改良点を探った。その結果、走査型電子顕微鏡による負極断面の観察により、充放電反応の初期には100µm(マイクロメートル、1µmは1,000分の1mm )あった金属リチウム負極の厚みが反応後50µm程度まで減少しており、金属リチウム負極が著しく劣化していることが分かった。

 これまでは、酸素正極反応の高い過電圧がサイクル寿命を低くしている原因と考えられてきたが、今回の観測の結果、負極の金属リチウム電極の劣化が過電圧の増大を引き起こしていることが判明、正極に原因があるとしていた従来の定説を覆した。

 これを受け、研究グループは負極の劣化を抑制するために軽量性と柔軟性を兼ね備えた厚み6µmの固体電解質膜を開発、これを負極の保護膜として電池に搭載し、400Wh/kg超の重量エネルギー密度を維持しながら、サイクル寿命を20サイクル以上へと大幅に向上させることに成功した。今後寿命をさらに向上させ、実用化につなげたいとしている。