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サッカーの熟練選手はボール操作で方向転換を予測し、効率と目的をもって動く―三次元の動作解析結果をトレーニングに応用し、技術向上につなげる:筑波大学

(2025年7月2日発表)

 プレー中にボールを止めるサッカーの「トラップ動作」で、熟練の上級選手は次への動作を見込んで上手に体を動かし、正確に操作している。筑波大学体育系の中山雅雄教授の研究グループはこの動きを三次元で精密に解析したと7月2日に発表した。選手育成やコーチングに役立てることができる。

 トラップ動作とは、飛んできたボールを足や胸で止め、次の行動に向けて方向転換すること。素早い攻撃のための重要な動作であり、得点機会に繋げて試合の流れを大きく変える重要なポイントになる。選手は瞬時に身体の向きや重心位置を調整し、次のプレーに移行することが求められる。

 重要な局面動作であるにもかかわらず、これまで実際の試合のように動的で予測困難な中での分析はほとんどなく、複雑なトラップ動作は解明されてなかった。

 研究グループは、大学のサッカー選手で全国大会に出場経験をもつ上級選手(10人)と経験のない中級選手(8人)を比較し、180度の方向転換をするボールトラップ動作での体の使い方の違いを調べた。

 選手の身体とボールに沢山の反射マーカーを付け、複数の赤外線カメラで反射マーカーの位置をミリ単位で読み取り、三次元の動作解析をした。

 これによってボールインパクトからパスまでの時間、足とボールの接触点、足関節の動き、骨盤の角度、足部と重心の速度などがどのように違うかを上級者グループと中級者グループで比較分析した。

 その結果、上級者群はインパクトからパスまでの所要時間が0.98±0.14秒で、中級者群(1.22±0.26秒)に比べて有意に短く、迅速な動作をしていることなどが確認された。

 また上級選手群の骨盤の向きは、インパクト時の骨盤角が-79.4°で中級選手群(-72.5°)より小さかった。骨盤の向きがボールの進行方向とより平行に保たれ、次の動作へのスムーズな移行が可能な姿勢だった。

 この結果から上級者のトラップ動作は単にボールを「止める」だけではなく、「次のターンを予測して身体を準備し、効率的で目的を考えたトラップを実現している」ことが明らかになったとしている。

 今後は成果を生かしたトレーニングメニューを開発するとともに、実際の試合に近い条件での実践研究を目指す。