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製鉄所からの副産物を利用してイネの発芽、発根、出芽を促進―種まき作業の短縮化、軽減化に大きな期待:農業・食品産業技術総合研究機構

(2025年7月9日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構は7月9日、イネの種もみの育成段階で製鉄所からの副産物の「転炉スラグ」を混ぜて水に浸すことで、発芽時間の短縮や発根促進、出芽率を高める効果を確認したと発表した。米作りの短縮化と農作業の軽減につながると期待される。鉄鋼の製造や加工、副産物の再利用をする産業振興株式会社との共同研究。

 イネの水稲栽培には多くの時間と手間がかかり、農家の重労働につながっていた。

 主な作業としては、休眠状態の種もみに水分を吸わせて発芽の準備をさせる「浸種(しんしゅ)」、十分に水を吸った種子を適温で保ちあらかじめ発芽させる「催芽(さいが)処理」、種を土に蒔く「播種(はしゅ)」などがある。

 大規模農家ではこの一連の作業を複数回繰り返すことが手間のかかる作業になっていた。

 中でも浸種から催芽処理までの作業は、水温や酸素量の管理、水の交換などで毎日種子の観察が欠かせない。苗の準備作業が効率化できるようになれば、水の節約や作業時間の短縮が実現する。

 転炉スラグとは、製鉄所で銑鉄から鋼を製造する際に出る副産物をいう。ケイ酸カルシウムが主成分で、酸化カルシウム、鉄、マンガン、ホウ素などの微量金属を含む。

 製鉄の副産物とイネ作りとの取り合わせは、意外性に富んでいるように思われる。

 転炉スラグはこれまでも農業肥料や酸性土壌の改良材として、また病原菌の被害軽減などに使われてきた。ただイネ作りで使われたとの報告はなかった。

 研究グループはイネの品種「キヌヒカリ」を使って、チューブ内で転炉スラグを混ぜた液に20℃で4日間種をつけた。蒸留水につけた場合よりも発芽が促進されることを確認した。

 発芽が早まることで、浸種期間を約1〜2日間短縮できる。

 今後は水稲の水の交換と種子を適温で保つ催芽処理の工程を省略することを試す。さらに浸種期間も短くするなど播種前の一連の作業の短縮化を目指すことにしている。