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エルニーニョの緻密な再現が、熱帯域の温暖化予測を高める―赤道太平洋の海流変動の正確な把握が、気候モデルの不確実性を少なくする:国立環境研究所

(2020年8月28日発表)

 (国)国立環境研究所地球環境研究センターの林未知也特別研究員と米国ハワイ大学マノア校との国際共同研究グループは8月28日、赤道太平洋の海面下の海流変動を正確に捉えることによって、熱帯地域の温暖化予測の精度が向上することを明らかにしたと発表した。気候モデルにつきまとっている予測の不確実性の低減につながる新たな提案となる。

 各国の研究機関が作成し、地球温暖化予測に使われている主な気候モデルは20個以上ある。かなり精度は高まったものの、まだ不確実性をどのように克服するかが課題となっている。特に熱帯太平洋の温暖化分布についてはモデルによる不一致が目立っていた。

 この気候モデルは長期的な温暖化予測だけでなく、エルニーニョ現象のような自然変動に伴う短期的な気候予測にも使われている。

 エルニーニョ現象とは、太平洋東部の赤道付近(中部アメリカの沖合)の海水温が数年に一度、平年よりも暖かくなる状態をいう。日本では冷夏に、アメリカ西海岸では洪水が多発するなど、世界各地の生態系や農業・漁業などの産業や生活を大きく撹乱してきた。ラニーニャ現象はこの逆で海水温が低くなる。

 ガラパゴス諸島(中米エクアドル沖合)を含む東部熱帯太平洋での観測では、エルニーニョに伴う海水の昇温の方がラニーニャによる冷却よりも強く現れているが、多くの気候モデルではエルニーニョ状態とラニーニャ状態を同じような強さでしか表現できない弱点があった。

 研究グループは、この海域の観測データと多数の数値気候モデルによる実験出力を分析した。

 その結果、「太平洋赤道潜流」(海面下数百mの海流)の変動を気候モデルが正確に表現できれば、再現されるエルニーニョとラニーニャの間の非対称的な特徴が明確になり、より現実的になることを初めて明らかにした。

 つまり、将来エルニーニョが強くなると予測するモデルではこの海域の温暖化はより早く進行し、逆に弱くなると予測すると温暖化が抑制されるというもの。このような関係は、気候に影響を及ぼす仕組みの一つを気候モデルが表現できていることを裏付けるもので、より信頼の高いモデルといえる。

 エルニーニョを正しく再現する気候モデルの構築は、東部熱帯太平洋の将来にわたる温暖化の不確実性を減らすために重要な役割を果たすと考えられている。

 今後もエルニーニョなどの自然変動を深く調べることがモデルの予測精度を高め、懸案になっている全地球規模での気候変動予測の不確実性低減につながるものとみている。