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統合失調症に過剰な硫化水素が関与―治療薬開発に新たな切り口:理化学研究所ほか

(2019年10月28日発表)

 (国)理化学研究所、筑波大学などの研究グループは10月28日、約100人に1人の割合で発症するといわれる統合失調症に脳内で過剰に作られた硫化水素が関与していると発表した。硫化水素の過剰産生を抑える阻害剤が実現できれば、統合失調症の症状改善に役立つ新薬開発にもつながると期待している。

 研究グループには理研 分子精神遺伝研究チームの井出政行 客員研究員(筑波大学講師)、大西哲生 副チームリーダーらのほか、山陽小野田市立山口東京理科大学、福島県立医科大学、東京大学の研究者が参加した。

 統合失調症の多くは思春期から壮年期に発症する精神疾患の一つで、幻覚や妄想、認知機能の低下などの症状を伴う。ドーパミンと呼ばれる神経伝達物質の作用を抑える薬剤投与などの治療法があるが、副作用があることや効果が必ずしも十分ではないなどの問題があった。発症メカニズムの解明が十分に進んでいないこともあって、新しい治療薬の開発も十分に進んでいなかった。

 そこで研究グループは、発症メカニズムを解明するために統合失調症に関係する特徴を示すマウスと正常なマウスを用いて脳内のたんぱく質の機能や量を網羅的に調べて比較した。その結果、脳内で硫化水素が作られる際に働く酵素「Mpstたんぱく質」が、統合失調症類似マウスでより多く作られていることが分かった。さらに統合失調症の患者の死後に脳を調べたところ、健常者と比べて「MPSTたんぱく質」が多かった。またその量が多い患者ほど生前の症状が重症であることなどが分かった。

 これまで研究では、炎症反応を抑えるという硫化水素による有用な生理作用に重点が置かれてきたために、硫化水素が過剰に作られた際にどんな影響が出るかはほとんど未解明のままだった。

 今回の研究で「硫化水素の産生が過剰になった場合の脳への影響が明らかになった」として、今後、より詳細に探求していくことで統合失調症の治療に向けた新たな創薬の切り口が見えてくると研究グループは期待している。