[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

精神・神経疾患の治療に手がかり―免疫物質の関与解明へ一歩:筑波大学

(2021年2月12日発表)

 筑波大学は2月12日、血液中にある免疫物質の一つ「インターロイキン17A(IL-17A)」が自閉スペクトラム症や統合失調症、うつ病などの精神・神経系疾患に関わる中枢神経系の異常とどう関わっているのか、そのメカニズムの一端を明らかにしたと発表した。自己免疫疾患の治療薬として確立されたIL-17Aの抗体などを、精神・神経系の病気の予防・治療に応用する可能性も開けると期待している。

 IL-17Aが精神神経疾患と関係が深いことは知られているが、そのメカニズムはよく分かっていなかった。そこで筑波大の佐々木哲也助教と武井陽介教授は、血液中のIL-17Aが通常より7倍多くなるマウスを実験的に作成、マウスの中枢神経系と行動にどのような変化を与えるかを詳しく調べた。特に、脳の中でも記憶の形成に重要な海馬に注目して解析を試みた。

 その結果、海馬の歯状回と呼ばれる部位の免疫細胞「ミクログリア」の密度が顕著に減少し、その活性も低下していることが分かった。また、海馬の歯状回と呼ばれる部分の脳内免疫細胞「ミクログリア」の密度が著しく減少、その活性も低下していた。当初は、血液中の異物が脳に入るのを防ぐために血管と神経細胞の間で関門の役割をしている細胞「アストロサイト」がIL-17Aを検知して活性化するのではないかと想定していたが、そうした結果は得られなかったという。

 今回の研究で、免疫分子の一つであるIL-17Aが精神・神経系疾患における中枢神経系の異常を起こすメカニズムの一端が明らかになったとして、佐々木助教らは「ミクログリアを標的とした治療薬の開発や、自己免疫疾患治療薬として確立しているIL-17A抗体などの精神・神経系疾患予防や治療への応用が期待される」と話している。