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水晶発振回路の高速起動に新技術―IoT社会の省エネ化に貢献:高エネルギー加速器研究機構ほか

(2018年6月13日発表)

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)と東京工業大学は613日、電子機器に使われる水晶発振回路の起動時間を世界最速の64μ秒(μ(マイクロ)100万分の1)にできたと発表した。従来の2倍以上に高速化したことで、起動時の電力消費を大幅に削減できる。あらゆるモノがインターネットにつながるIoT社会の到来で電子機器の数が急速に増え続ける中で、その社会的インパクトは大きいとみている。

 高エネ研の宮原正也准教授が東工大の岡田健一准教授らの研究グループと共同で、電圧をかけると一定の周波数で振動する水晶振動子と、発振に必要な増幅器などの回路をシリコン半導体基板上に形成した。

 水晶発振回路の起動時間を高速化するには水晶振動子の電気抵抗を打ち消すような回路構成が必要だが、従来はそのために消費電力が増やさなくてはならないなどの問題があった。そこで新技術では、消費電力をほとんど増やさずに水晶振動子の電気抵抗を打ち消せるよう、増幅器を多段構成にするなどの工夫をした。

 試作した水晶発振回路の大きさは縦91μm、横58μm。これを40MHz(メガヘルツ、1MHzは100Hz)で発振させたところ、これまでに報告された同じ発信周波数の水晶発振回路の半分以下に相当する64μ秒で高速起動できたという。

 水晶発振回路を無線機や電子機器のシステムクロック(コンピューターに内蔵されている時計)などの信号として使う際、非動作時には省エネのため発振回路の電源は切ってある。しかし、起動するために電源を入れる際に、従来の回路では発振が安定するまでに最低でも数ミリ秒(ミリは1,000分の1)はかかっており、その間に使われる電力が無駄になっていた。

 インターネットにつながる電子機器の数は毎年15%増加しており、近い将来には1兆個を超えるとされている。そのため個々の電子機器に組み込まれる水晶発振回路の起動時間を高速化し起動までに無駄になる電力消費を減らすことが、社会全体の省エネ化を推進するための課題になっていた。