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最も重い素粒子トップクォークの質量の起源が判明―トップクォーク対とヒッグス粒子の同時生成事象を初観測:高エネルギー加速器研究機構ほか

(2018年6月7日発表)

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)と東京大学は67日、欧州合同原子核研究機関(CERN)が大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で行っている実験で、ヒッグス粒子がトップクォークのペアと一緒に生成されるという、極めて稀にしか起きない反応を初観測したと発表した。

 これは、最も重い素粒子であるトップクォークの質量がヒッグス機構で生成されていることを示すもので、物質を構成している第三世代の粒子の質量生成の仕組みが解明されたことになるという。

 この実験はATLAS実験と呼ばれており、世界38か国から3,000人が参加、KEKと東大は参加17機関の日本グループの主要メンバー。

 大型加速器LHCで光速近くまで加速した陽子同士を衝突させ、衝突で作り出される様々な粒子をATLAS測定器で観測、宇宙生成時の謎に迫るのが実験の狙い。2012年に衝突エネルギーを8TeV(テラ電子ボルト)に高めた実験でヒッグス粒子を発見、その後衝突エネルギーを13TeVに増強して衝突実験を継続中。

 今回、2017年までに収集したデータの中に、ヒッグス粒子がトップクォーク対と同時に生成されるという、極めて稀にしか起きない反応を発見した。

 ヒッグス粒子は、物質粒子、力を伝える粒子、ヒッグス場に伴う粒子の3種類に大別される素粒子の一種で、ヒッグス場に伴う粒子を指す。ビッグバン直後、それまでの真空がヒッグス粒子の場で満たされ、真空はヒッグス粒子の海になった。真空中を質量ゼロで飛び交っていた粒子はヒッグス場と反応し、質量のある粒子として振る舞うようになったとされている。

 2012年のヒッグス粒子発見で、宇宙はヒッグス場で満ちていて、素粒子の質量はヒッグス場の動的な性質で生成されている、というヒッグス機構が突き止められた。今回は、3世代に分かれる物質粒子クォークのうち、第3世代に属するトップクォークの質量がヒッグス機構によることが示された。

 素粒子の質量の起源の全貌解明に向けて大きく前進したという。

 今後トップクォークとヒッグス粒子の相互作用を詳しく調べる一方、物質粒子に大きな質量差がある理由や、素粒子に世代の違いを生んでいる謎などの解明に迫りたいとしている。