(独)農業生物資源研究所は8月3日、米のタンパク質の間を強固につなぐ化学結合(ジスルフィド結合)が米の中で作られる仕組みを解明したと発表した。
ジスルフィド結合は、2つ以上の分子が橋をかけたような形で結合することから「架橋」とも呼ばれる。タンパク質の架橋は、食品の品質の決定に関わる重要な因子の1つとされている。米には、澱粉に加えてタンパク質が豊富に含まれており、酸化反応によってタンパク質に架橋ができることは分かっていたが、その仕組みはこれまで不明だった。
今回の研究では、米の一般的な調理法である炊飯用のイネの新種開発ではなく、加工特性に優れた粉食用のイネの開発を目指した。まず、同研究所が保有するイネの系統や突然変異体の中から、タンパク質間の架橋が多いものがあるかどうかを調べた。その結果、「esp2」と呼ばれる突然変異体で、タンパク質が架橋を多く作っていることが分かった。
この変異種のイネの成長過程を詳細に観察することによって、タンパク質の架橋ができる時に、酸素が消費されること、また、この反応の副産物として活性酸素の一種である過酸化水素が発生していることが明らかになった。過酸化水素は、一般的に細胞には有害だが、イネでは種子の形成に必要である可能性が示された。この過程に2種類の酵素(ErolとPD1)が関与していることも明らかになった。
この変異種のイネを使って得られた研究成果は、タンパク質の架橋の形成と過酸化水素の発生との関係を、生の組織を使って証明した世界で初めての実験となった。
タンパク質の架橋は、酸化反応によって形成されるが、酸化反応には酸化力の源が必要である。生物は、どのようにしてこの酸化力を生み出し、架橋を作るのかという問題は、生化学の分野での大きな疑問であった。今回の成果によりこの問題を解く重要な手がかりが得られた。
また、同研究所で開発を進めているパン用の米粉(esp2米粉)に、タンパク質の架橋が極めて多いことも明らかになった。今後、加工特性に優れた米粉の開発が加速されることが期待される。
この研究成果は、8月3日の週に米国科学アカデミー紀要のオンライン版に掲載された。
No.2009-31
2009年8月3日~2009年8月9日