小型自由電子レーザー使い赤外線とX線の同時発生に成功
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は8月3日、専用の電子蓄積リングを利用した自由電子レーザーで波長0.84~1.50μ(ミクロン、1μは100万分の1m)の赤外線を発生させ、その赤外線に光速近い速さの電子バンチ(束)を衝突させてX線を同時発生させることに成功したと発表した。
 発生したX線は、ほぼ単色。そのエネルギー領域は、120万~210万電子Vで、これまで単色のX線を得るのが困難だった領域を含んでいる。この成果は、赤外線とX線を複合した新たな研究領域を開くものと期待される。
 光速近くまで加速された電子が向きを変える時に接線方向に飛び出す放射光は、多くの分野で利用されているが、30万電子Vを超すX線を得るのは現在でも困難だ。同研究所は、前身の電子技術総合研究所時代の1991年に川崎重工業(株)と共同開発した自由電子レーザー専用の電子蓄積リング「NIJI―Ⅳ」を用いて自由電子レーザー光発振波長の短波長化に取り組み、多くの成果を得ているが、今回は長波長化に挑んだ。
 研究者は、陸上競技のトラックの形をした一周約30mの「NIJI-Ⅳ」の2つの直線部分(長さそれぞれ約7m)の片方に新開発の赤外線光源(光クライストロン)を挿入、これを挟んで一対の反射鏡をセットして光共振器とし、発生した赤外線を閉じ込め、その増強と安定化を図った。これで赤外線専用蓄積リングとしては、世界初の自由電子レーザー光発振に成功した。発振波長は赤外線領域の0.84~1.50μで、最大出力は1.6mWだった。
 研究グループは更に、その赤外線を使ってX線の発生を試みた。これには、光速近くまで加速した電子が赤外光など比較的エネルギーの低い光子と衝突するとエネルギーの高いX線が発生する「逆コンプトン散乱」と呼ばれる現象を利用した。

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電子蓄積リング「NIJI-Ⅳ」(提供:産業技術総合研究所)