高エネルギー加速器研究機構(KEK)と(独)日本原子力研究開発機構(JAEA)は4月23日、両機構の共同組織体である「大強度陽子加速器施設(J-PARC)」のニュートリノ実験施設で同日、ニュートリノビームの生成を開始したと発表した。
この生成開始により、素粒子の一つニュートリノをJ-PARCから295km離れた岐阜県・神岡(飛騨市)の東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設のニュートリノ観測装置「スーパーカミオカンデ」に向けて打ち出し、ニュートリノ振動と呼ばれる現象を詳細に調べる実験「T2K実験」が今年12月からスタートする。
茨城県・東海村のJAEA内にあるJ-PARCのニュートリノ実験施設は、KEKが中心となって設計・建設した世界最高強度のニュートリノビーム生成装置。建設は、平成16年度に始まり、今年3月に完成、陽子を加速するメインリングから陽子ビームを受け入れる調整作業が行なわれていた。この調整や検査のためのビーム供給は、今年5月で一旦修了、残りの機器据付など行い、秋からビーム調整を再開、T2K実験に備える。J-PARCの他の実験施設(物質・生命実験施設、原子核・素粒子実験施設)は、既に稼動している。
J-PARCのメインリングで加速した陽子(水素の原子核)をニュートリノ実験施設の電磁石で神岡方向に曲げた後、グラファイト(黒鉛)の標的に衝突させると多数のパイ中間子が発生する。その中間子が長さ100mのトンネルを飛行中にニュートリノとミュー粒子に崩壊するので、そのニュートリノを地下のビームライン終端部から295km離れたスーパーカミオカンデに向けて打ち出しT2K実験に使う。
ニュートリノの生成は、ニュートリノと共に発生するミュー粒子を検出器で観測することで分る。今回のニュートリノ生成も、この手法で確認した。
T2K実験では、J-PARCのニュートリノ実験施設とスーパーカミオカンデの双方に検出器を置き、年間約1,600個のニュ-トリノを検出し、東海村と神岡間の地下を飛行する間にニュートリノの種類が変わるニュートリノ振動という現象を詳細に調べ、ニュートリノの性質を明らかにする。T2K実験は、世界12カ国から400人を超える研究者が参加する国際共同実験になる。
No.2009-16
2009年4月20日~2009年4月26日