ガンマ線使い隠れた同位体の位置と形状を測定することに成功:産業技術総合研究所/日本原子力研究開発機構/京都大学

 (独)産業技術総合研究所、(独)日本原子力研究開発機構、京都大学は3月5日、高エネルギー電子とレーザーを衝突させて発生するガンマ線ビーム「レーザー・コンプトン散乱ガンマ線」を用いて、厚い鉄板に覆われた物体を、その構成元素の同位体を特定した上で、形状などを測定することに初めて成功したと発表した。
 同じ元素で中性子の数が違うものを同位体と呼ぶ。従来技術であるX線透過撮像法は、物体の密度の違いからその内部の状況を認識することは可能だが、物体に含まれる同位体を識別することはできなかった。原子力発電に伴い発生する廃棄物中には、様々な同位体が含まれているが、同位体を識別した上で物体内部を透視する技術はまだ実用化されていない。
 共同研究グループは、ガンマ線を使う「原子核共鳴蛍光散乱(NRF)」と呼ばれる現象に着目した。同位体の原子核は、その構成要素である陽子と中性子の数により、固有の振動数をもつ。この振動数に一致したエネルギーをもつガンマ線を入射したときに現れる蛍光を観測することで、同位体の存在を知ることができる。また、NRFで用いるガンマ線のエネルギーは、厚さ数cmの鉄板を透過できるので、厚い遮へいを通して隠れた内部の透視が行える。
 共同研究グループは、産総研(茨城・つくば市)の放射光施設(TERAS)に設置されたレーザー・コンプトン散乱ガンマ線装置で実験を行った。発生したレーザー・コンプトン散乱ガンマ線を、対象試料に照射した。試料は、厚さ15mmの鉄板で囲われた20mm角の鉛ブロック(鉛208を52%含む)で、鉛のブロックは隠れていて見えない。試料中の鉛208の原子核共鳴蛍光散乱で発生するガンマ線を、検出器で計測することで、鉄ブロック中に隠ぺいされた鉛ブロックの位置と形状を知ることができた。
 この実験により、レーザー・コンプトン散乱ガンマ線を用いることで、従来は測定できなかった厚さ数cmの鉄板などを透過して内部にある任意の元素とその同位体を測定する技術が、実現可能であることを実証した。
 現在、日本原子力研究開発機構では、既存のレーザー・コンプトン散乱ガンマ線より1,000万倍も輝度が高い装置の開発を進めている。この技術が実現すれば、放射性廃棄物に含まれる長寿命核種の濃度計測や、空港・港湾などでの様々な非破壊検査が可能になる。

詳細はこちら