(独)産業技術総合研究所は3月4日、寒天の主成分をゼリー状にしたアガロースゲルを用いて単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を金属型SWCNTと半導体型SWCNTに分離する非常に簡便な方法を開発したと発表した。
単層カーボンナノチューブは、炭素原子からなる直径0.7~4nm(ナノメートル、1nmは:10億分の1m)程度の超微細な筒で、炭素原子の並び方によって、金属的な性質のものと、半導体的な性質のものがある。合成すると、金属型と半導体型が1対2の混合物になるが、電気的な用途に応じて金属型と半導体型を分離して使わなければならない。これまでの分離法では、回収率や純度、コストなどに問題があり、安価で大量処理が可能な分離技術の開発が望まれていた。
同研究所では、昨年2月に「アガロースゲル泳動法」という方法により金属型と半導体型を高い回収率で分離できることを発表した。今回この分離法を大幅に簡略化する方法を開発した。
新しい方法は、SWCNTを含むアガロースゲルを凍結・解凍後に搾り出すだけで、金属型を含む溶液と半導体型を含むゲルに分離することができる。「高野豆腐」の製造の際に、凍結-解凍の過程によって豆腐のゲル構造を変化させ、水分を取り除くことが行われるが、その手法を応用した。新しい方法は、非常に単純なため、分離工程の自動化による低コスト化や大型化が容易で、金属型SWCNT・半導体型SWCNTの大量生産の実現につながると考えられている。
金属型SWCNTは、液晶ディスプレーなどの透明電極への利用が期待されている。一方、半導体型SWCNTは、透明で折り曲げることができるフレキシブル・トランジスタなどへの利用が見込まれている。
同研究所では、今後、企業などと協力して、大型化と低コスト化を進め、金属型SWCNTと半導体型SWCNTの大量生産に向けた研究などを推進する予定。
この研究成果の一部は、米国の科学誌「Nano Letters」の3月11日号に掲載された。
No.2009-9
2009年3月2日~2009年3月8日