昆虫による植物組織の修復・再生現象を発見
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は2月25日、集団生活をしているアブラムシの中で、兵隊アブラムシが自己犠牲的に多量の体液を出し、その固化によって植物組織の傷を塞ぐだけでなく、塞いだ傷の周りの植物組織を口針(口の部分にある極めて細い針のようなストロー状の器官)で刺激することで、その再生治癒を誘導するという驚くべき現象を発見したと発表した。
 アブラムシは、植物の汁を吸って生息する小型の昆虫で、農業や園芸の大害虫として知られている。アブラムシの一部は、子孫を残す能力や機会を犠牲にし、外敵昆虫に対するコロニー防衛などの働きを担うため兵隊アブラムシと呼ばれている。
 同研究所では、モンゼンイスアブラムシ(アブラムシの一種)の生態について、数年間にわたる野外調査や実験的解析を行ってきた。モンゼンイスアブラムシは、イスノキという木に直径8cmほどの「虫こぶ」を形成する。虫こぶは、アブラムシが植物の組織を肥大、変形、成長させて形成する構造で、内部は空洞になっており、多数のアブラムシが内壁の植物の汁を吸って生きている。
 野外調査では、春にモンゼンイスアブラムシがいる野外の虫こぶに直径2mmほどの穴をあけてみた。すると、その穴は、1時間以内に兵隊アブラムシの凝固体液で(応急処置的に)ふさがれた。修復2週間後位から穴の周囲の植物組織が著しく成長し、修復1か月後までに植物組織で完全に裏打ちされてしまった。兵隊アブラムシの幼虫が虫こぶの傷の周囲に集合しておそらくは口針の刺激(植物ホルモンのような化学物質の注入など)により植物組織の増殖再生を促したものと考えられている。
 体液凝固による“かさぶた”の形成で傷口をふさいで安定化し、続いて周囲の組織の増殖により傷が完全に治るという、いわゆる「創傷治癒過程」は、ヒトを含む脊椎動物や、昆虫などの無脊椎動物に広く見られる。しかし、昆虫が、全く異なる生物種である植物の傷を、自身の体液凝固による“かさぶた”形成で応急処置し、さらに植物組織の治癒促進までするのは“前代未聞”の現象。基礎生物学的にも植物組織の成長や増殖の外部要因による制御の観点から興味深いとされている。
 この研究成果は、英国の学術誌「Proceedings of the Royal Society B」(英国王立協会紀要)のウェブサイトで2月25日にオンライン掲載された。

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