(独)物質・材料研究機構は5月23日、特殊な合金元素を多量に添加することなく、一般的な合金材料を用いて壊れにくい超高強度鋼を開発したと発表した。この鋼は、マイナス60ºC~プラス60ºCの範囲では、温度が下がるほど衝撃吸収エネルギーが上がって靭性が増すという、既存の鋼とは逆の温度依存性を持っている。
一般的に金属は硬いほど脆く、温度が下がるほど壊れ易くなる。コバルトやニッケルなどの金属を多量に添加した最高級の高合金鋼でも、室温以下に冷却されると靭性が急速に低下するため、構造用部材としての用途は限られている。このため、同機構は「強度2倍、寿命2倍の超鉄鋼材料」の開発を目指した「超鉄鋼プロジェクト」を1997~2005年度に行なった。今回の成果は、このプロジェクトで得た超微細粒鋼創製技術などの応用から生まれた。
研究者は一般的な合金材料であるシリコン、クロム、モリブデンの合計重量比5%以下の低炭素合金鋼を焼き入れ処理後、溝が次第に狭くなるロールを使って500ºCで加工、結晶面が衝撃方向に垂直で、平均粒径260nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の超微小結晶の中に50nm以下の大きさの炭化物粒子が分散している棒材を作った。衝撃試験の結果、既存の超高強度合金が衝撃方向に割れが伝播して真っ二つに破断されるのに対して、新開発鋼は木や竹を折った様に割れが衝撃とは直角方向に進み、衝撃方向には進展し難く、その結果、衝撃吸収エネルギーが大幅に向上することが分った。
こうして開発した鋼の平均衝撃吸収エネルギーは、室温下で最高級超高強度鋼の約6倍に達する。また、この製法は、単純な加工熱処理なので汎用性が高く、硬くて脆いため冷間成形がこれまで困難だった材料にも適用出来る。
同機構は、この高強度鋼実用化に向けてデータを蓄積すると共に、効率的な製造技術を確立し、シャフトやボルトなど複雑な形状をした部材にまで使えるようにしたいとしている。
この成果は、5月23日付け米国科学雑誌「サイエンス」に掲載された。
No.2008-20
2008年5月19日~2008年5月25日