コンパクトな超高磁場NMRの実現へ
―レアアース系の高温超電導ワイヤ使った装置を開発
:理化学研究所/物質・材料研究機構ほか(2016年1月8日発表)

 (国)理化学研究所、(国)物質・材料研究機構などの共同研究グループは1月8日、レアアース(希土類元素)を使った高温超電導物質のワイヤで核磁気共鳴(NMR)装置を開発し、タンパク質の高精度の測定に成功したと発表した。1,020MHz(メガヘルツ、メガは100万)と世界最高の超強磁場をコンパクトな装置で実現できることから、膜タンパク質を使った薬の効果・副作用を調べる創薬研究や、繰り返し充電可能な小型・高容量の二次電池の開発などに力を発揮できると期待が集まっている。ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー社、JEOL RESONANCE社、千葉大学との共同研究による。

 

■高感度、高分解能のNMRで、創薬や先端材料開発に応用

 

 NMRは磁場を使って物質の構造を詳しく調べる分析装置として開発され、その後、医療用でMRIと呼ばれ、体の臓器や血管の撮影、診断などにも広く実用化されるようになった。

 ここで使う超電導コイルには、液体ヘリウム温度(マイナス269℃)での低温超電導コイルと、液体窒素温度(マイナス196℃)の高温超電導コイルがある。前者の磁場は1,000MHzが上限だが、後者はその倍近い2,000MHz級の超強磁場が出せる。磁場の強度が強くなるほどNMRの感度と分解能が高くなり、精度よく検出や分析、撮影ができるため、各国ともにレアアース系物質の高温超伝導電磁石の開発を目指している。

 レアアース系のワイヤは、機械的強度が強いため装置をコンパクト化できる利点がある。その半面、試験コイルと実際のNMRで検証したところ、①極低温下での冷却によってコイルに歪みが生じて超電導特性が劣化する②強い磁力によってNMRに不可欠な均一の磁場が乱れる―との課題が見つかった。

 グループはこの対策として、冷却による歪みには柔らかいパラフィンワックスをコイル全体に浸透させて抑えた。均一な磁場の乱れは、6個の小さな鉄シートを試料の近辺に配置することなどで解決した。この2つの対策で400MHz(約10テスラ)のNMRを作り、磁場の不均一性が10億分の1レベルと極めて安定した状態で高性能測定ができることを確認した。 

 少数の鉄シートによる超精密磁場の発生は簡単にできる手法で、極めて大きな発見。今後の超高磁場NMRの開発に不可欠な技術となり、1,200MHzから1,300MHz級のNMRの装置開発に明るい見通しがついたとしている。また、このクラスのNMRはコイルの重量だけで4tにもなるが、レアアース系コイルを使うことで1〜2tと格段の軽量化ができる。

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