高エネルギー加速器研究機構(KEK)は9月24日、(国)理化学研究所、東京大学、立命館大学、千葉大学、京都大学、(国)日本原子力研究開発機構、(財)高輝度光科学研究センターの共同研究で、超高速で起こる光化学反応の観測実験に成功したと発表した。ヨウ素分子から光電子が出る瞬間の分子構造をとらえたもので、光化学反応の可視化に迫る成果という。
■ヨウ素分子から光電子が出る瞬間の分子構造捕捉
物質に光が当たると化学変化を起こす光化学反応の多くは、ピコ秒(1兆分の1秒)からフェムト秒(千兆分の1秒)の超高速で進行する反応で、その可視化や分子構造変化の解明が先端化学研究の主要な課題の一つになっている。
光電子回折法という手法を用いて光化学反応の可視化研究に取り組んでいる共同研究グループは、今回、X線自由電子レーザー(XFEL)施設から得られる大強度・超短パルスのXFELを光源に用い、気体ヨウ素分子の光化学反応を観測した。
光電子回折法は、分子中の特定の原子から放出される光電子の波と、同じ分子内の隣の原子から散乱される波との干渉を利用して分子構造を決める手法。
実験では気体のヨウ素分子にイットリウム・アルミニウム・ガーネットを用いたYAGレーザーパルスを照射して分子の方向をそろえ、同時にXFELパルスを照射することによって光電子回折像を得ることに成功した。得られた観測結果は理論計算の結果とよく一致し、分子の原子間距離や結合角を光電子回折像から決定できること、また超短パルスXFELにより光電子放出が起こった瞬間の分子構造が決定できることを確認できたという。
今後、試料分子の向きをよりよく揃えて干渉パターンを観測すれば、超高速で進行する分子の光化学反応途中の分子構造の変化を精度良く決めること、すなわち光化学反応の可視化が期待できるとしている。

光電子回折装置の概念図。パルス分子線の中のヨウ素分子は、YAGレーザーパルスの電場の方向に向きが揃えられる。YAGレーザーパルスと同期したXFELパルスで、ヨウ素分子から光電子が放出されると、分子結合は切断されヨウ素イオンとして解離する。上部の検出器で光電子の速度分布画像を観測し、下部の検出器で解離イオンの速度分布画像を観測(提供:高エネルギー加速器研究機構)