アカゲザルの脳の特定神経回路を光で操作
―ヒトの脳機能の解明や神経疾患の治療に光
:筑波大学/京都大学(2015年9月21日発表)

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前頭眼野から上丘への神経路のみを光によって操作する実験系の概念図(提供:筑波大学)

 筑波大学と京都大学霊長類研究所の研究グループは9月21日、脳神経系における特定の神経回路の活動を光で操作する手法を開発し、霊長類で初めて、目的とする回路だけを選択的に活性化させることに成功したと発表した。この成果は、高度に発達したヒトの高次脳機能の解明や、精神・神経疾患の治療法の開発などに役立つという。

 

■霊長類で初、脳深部刺激療法の進展などに貢献

 

 光によって活性化されるタンパク質を遺伝子操作で特定の細胞に発現させ、細胞機能を光で操作する技術やその研究を「光遺伝学」という。光遺伝学の進歩により、近年、マウスやラットなどのげっ歯類で特定回路の機能を操作することが可能になっているが、霊長類の高度な脳ではこれまで不可能だった。

 研究チームは今回、目を動かす役割を担った眼球運動制御回路網のうち、大脳前頭葉の前頭眼野から中脳にある上丘への神経回路を対象に、アカゲザルを用いて光遺伝学の適用を試みた。

 実験では、光により神経細胞を活性化させるイオンチャンネル(チャンネルロドプシン2)を前頭眼野の神経細胞に発現させ、光ファイバーを取り付けた電極「オプトロード」を上丘に刺し入れた。

 この状態で前頭眼野の神経細胞の末端に光刺激を与えたところ、上丘の神経細胞の活動の上昇が認められた。これは、光刺激で興奮した神経細胞の先端から神経伝達物質が放出され、それを受容した上丘の神経細胞がその活動性を増大させたと考えられるという。

 さらに、光刺激による前頭眼野-上丘回路の選択的な活性化が眼球運動に与える影響を調べたところ、前頭眼野から上丘への投射系のみの活性化によって、眼球運動の誘発や変化が生じることが認められたという。

 これらの結果から、今回の手法を用いれば霊長類の神経回路を光で操作できることが示されたとしている。パーキンソン病やうつ病などの治療で用いられる脳深部刺激療法の進展などに貢献することが期待されるという。

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