(国)産業技術総合研究所は9月25日、ストックホルム大学(スウェーデン)の研究者らと共同で、細胞内小器官であるミトコンドリアのタンパク質搬入のメカニズムを解明したと発表した。難病ミトコンドリア病の解明や老化予防研究などへの今後の進展が期待されるという。
■老化予防研究などへの進展期待
ミトコンドリアは生命活動に必要なエネルギー(ATP)の産生や、さまざまな物質の代謝など生命体の維持・健康に深く関わっている細胞内の小器官。外膜と内膜の2枚の生体膜に囲まれ、1000種類以上のタンパク質で構成されていて、これらタンパク質のほとんどは膜の外で合成され、トランスロケータと呼ばれる膜透過装置が提供する通り道を介してミトコンドリア内に取り込まれている。
外膜にあるこのトランスロケータは、「TOM複合体」とも呼ばれる膜タンパク質複合体で、7、8種類のサブユニットから成り、その精密構造やタンパク質を効率よく透過させる仕組みなどは未解明だった。
研究グループは酵母のミトコンドリアを用いて各種の観測・実験をし、主要なメカニズムを解き明かした。
「TOM複合体」のうち、膜透過用の通り道として働いているのは「Tom40」というサブユニットで、研究の結果、タンパク質は円筒形の形をした「Tom40」の孔を通り、この孔の内側にはタンパク質の性質に応じて異なる通り道が用意されていることが分かった。
外膜を透過したタンパク質は「Tom40」のN末端という部分を介してシャペロンというタンパク質に引き渡され、このシャペロンタンパク質の働きによって、膜間部から内膜、その内側へと配送される。今回、N末端はシャペロンを孔の出口部分に集め、孔を通って膜間に出てきたタンパク質を効率よくシャペロンに引き渡す働きをしていることを突き止めた。
さらに、「TOM複合体」は、孔が3つの完成型と孔が2つの準備型の間を行き来しており、常に新しい「Tom40」 サブユニットを古くなった「Tom40」サブユニットと入れ替えていることなども分かったという。
酵母のミトコンドリアで解明したTOM複合体のメカニズムはヒト細胞でも共通とみられ、今後ミトコンドリアをめぐる健康や病いの研究の進展が期待されるとしている。

ミトコンドリアへのタンパク質配送経路と搬入口TOM複合体。黒矢印が1000種類以上のタンパク質のミトコンドリアへの配送経路。サイトゾルで合成されたミトコンドリア前駆体タンパク質の大部分は搬入口TOM複合体を通って外膜を通過し、目的区画に仕分けられる。TOM複合体は受容体や前駆体タンパク質の通り道を提供するTom40から構成される(提供:(国)産業技術総合研究所)