(国)産業技術総合研究所は6月18日、有機物質の結晶に光を当てるだけで、ガラスの表面をゆっくり移動する不思議な現象を発見したと発表した。微小な領域での物質の運搬や微小バルブなどに応用できそうだと期待している。
■微小バルブなどへの応用も
この物質は、2つのベンゼン分子を2個の窒素原子でつないだシンプルな構造の「アゾベンゼン」で、光が当たると分子の形状が変わる「光異性化」の代表的な物質として知られていた。同研究所の電子光技術研究部門分子集積デバイスグループは、光の照射で液化と結晶化(固化)を繰り返す有機物質の探索中にこの現象を見つけた。
まずアゾベンゼンの構造の一部を変化させた「アゾベンゼン誘導体」を使った。室温で結晶状態だが、紫外線を当てると液化する。逆に可視光線を照射すると結晶に戻る。ガラス板の表面に乗せたアゾベンゼン誘導体に対して、紫外線と可視光線を反対の斜め上から同時に照射したところ、紫外線から遠ざかる方向に結晶が移動した。移動は時速に換算して0.1mmとゆっくりだった。ガラス板を垂直に立てても同じような動きをみせた。
アゾベンゼンは室温では光異性化を示さないが、50℃に温めるとアゾベンゼン誘導体と同じような移動現象を示した。光で結晶化と液化に変わる物質であれば、温度や光の波長を変えることで移動現象を示すものとみている。このメカニズムを解明するとともに、微小なアクチュエーターなどへの利用法を探している。

結晶が光で移動する現象の様子。左は、結晶が移動する現象の模式図、右は、顕微鏡写真(提供:(国)産業技術総合研究所)