茨城大学、大阪大学、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構、久留米大学、宮崎大学などの共同研究チームは4月15日、光合成色素が酵素によって作られる瞬間の状態を、世界で初めて水素原子1個レベルの解像度でとらえたと発表した。人工光合成のような新しいエネルギーシステムの開発に役立つという。
■人工光合成システムや光センサーなどの研究開発加速
植物やシアノバクテリアのような光合成生物は、ビリン色素という光を集める色素を細胞内に持っている。研究チームが観察したのはその1つの「フィコシアノビリン」という色素の合成反応。
X線構造解析という手法を用いた従来の研究では色素化合物の構成原子の中で最も小さい水素原子は見えず、生物がどのようにフィコシアノビリンを合成するのか謎が多かった。
研究チームは今回、フィコシアノビリン合成酵素の大型結晶を作製し、これとフィコシアノビリンの原料物質「ビルベルジン」とが結合した状態を中性子を用いて調べた。中性子の照射は、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)の装置(「茨城県生命物質構造解析装置」)を用いて行った。
その結果、初めて水素原子をとらえることができ、フィコシアノビリンの原料となる色素とその近くのアミノ酸それぞれの水素の有無によって、酵素反応が制御されていることが分かった。
また、水分子(H2O)に水素イオン(H+)が結合したヒドロニウムイオン(H3O+)が存在しているのを発見、ヒドロニウムイオンが反応促進の役をしていることが推測された。
今回得られたこうした知見は、機能性色素の人工合成に道を開く重要な成果であり、人工合成色素を組み込んだ人工光合成システムや新たな光センサーなどの研究開発を加速することが期待できるという。