筑波大学と(独)物質・材料研究機構の研究グループは3月24日、物質中の電子を与えたり受け取ったりできる両極性分子を使ったヘテロ型有機太陽電池デバイスを作成し、電荷の注入の様子を分光学的に確認したと発表した。この方法では、分子と異種分子との境目で、電荷の移動を感度よく観測できるようになるという。低コストで高効率、折り曲げ自在な有機太陽電池の設計と実用化に大きく貢献しそうだ。筑波大数理物質系の守友浩教授と物材機構の安田剛主任研究員らによる研究で、米国応用物理学会誌オンライン版で公開された。
■低コストで折り曲げ自在な有機太陽電池の素子設計に貢献
ヘテロ型有機太陽電池とは、電子を与えやすい分子と、電子を受け取りやすい分子を層状に積層したもので、光を電気に変換する効率が8.4%と優れ、低コストであることから新しいタイプの有機太陽電池として注目されている。
有機分子が光を吸収するとエネルギーの高い励起状態になり、異種分子層との境界で相手に電子、または正孔(電子の抜け殻)をわたす。これによって光エネルギーが電気エネルギーに変換される。励起子はもともと数nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)しか移動できないと考えられていたが、レーザー光を使った超高速分光法で測定したところ、予想外に“長距離”を移動できることが確かめられた。
分子層の厚さ25nmを移動するのに300ピコ秒(ピコは1兆分の1)かかることが実験で確認された。励起子が比較的ゆっくり移動するのは、より多くの太陽光を電気に変換できる可能性を示している。
ナゾの一つだった有機太陽電池の光電エネルギー変換のメカニズムが解明されれば、高効率の有機太陽電池の開発に明るい見通しがつくとみられている。