平成26年7月3日のハリケーン アーサー。上の赤外観測による雲画像からは台風の内部構造を把握できないが、下のマイクロ波観測では、台風の目の二重構造を捉えている（JAXAホームページから：NOAA、米国海軍研究所提供）
（独）宇宙航空研究開発機構（JAXA）は9月5日、米国海洋大気庁（NOAA）が日本の水循環変動観測衛星「しずく」搭載の高性能マイクロ波放射計（AMSR2）観測データの本格的利用を開始したと発表した。「しずく」はJAXAが2012年5月にH-ⅡAロケット21号機で種子島宇宙センター（鹿児島・南種子町）から打ち上げ、搭載しているAMSR2の観測データは2013年2月からJAXAがNOAAに提供、NOAAは地球と米国周辺の陸、海洋、大気の監視や天気予報などに利用する準備を進めていた。
■天気予報の精度向上へ
「しずく」のAMSR2は地球の地表や海面、大気などから自然に放射されるマイクロ波を6つの周波数帯で観測する。このマイクロ波の強さは物の性質、含まれる水分量、表面の状態・温度などで決まるが、非常に微弱である。「しずく」は地球をほぼ南北に飛ぶ高度約700kmの軌道からこの微弱なマイクロ波を雲の影響を受けず捉え、その強さを高精度に観測する。例えば海面から放射されるマイクロ波の強度から、0.5℃の精度で海面温度が分かる。こうした結果が台風の進路予測といった天気予報の向上につながる。
NOAAの国立ハリケーンセンターでは、今年6月から「しずく」のAMSR2データの利用を定常的に開始、その有効性などを評価してきた。既に7月3日に米東海岸に上陸寸前のハリケーン「アーサー」の二重構造を明確に捉えるのに成功した。また観測データの素早い利用のため、7月29日からウイスコンシン州とカルフォルニア州の2つのNOAA局でAMSR2の直接受信を開始した。NOAAでは現在の2局に加えて他の州でも「しずく」AMSR2データの直接受信を計画しているという。
NOAAはさらに、JAXAが（独）情報通信研究機構と共同開発した全球降水観測計画（GPM）主衛星搭載の二周波降水レーダー（DPR）のデータ活用も検討しているという。米国付近での熱帯低気圧の予測向上が狙いという。日本では「しずく」AMSR2の観測データは既に昨年9月から、気象庁の定常的な数値予報システムに組み込まれ、降水予報の精度向上に利用されている。
