温室効果ガスのメタン放出に第3のメカニズム
―シベリア凍土地帯の森林土壌、降水量の増加で放出源に転化へ
:森林総合研究所(2014年9月1日発表)

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メタン吸収(放出)速度と土壌水分率の関係。メタン吸収(放出)速度と土壌水分率の関係から得られた直線を破線で示した。速度の単位は、1日あたり1haあたりの吸収(放出)量(提供:森林総合研究所)

 (独)森林総合研究所は9月1日、地球温暖化の予測モデルで現在メタンの吸収源として扱われているシベリア永久凍土地帯の森林土壌が、降水量の増加によりメタンの放出源に転化する可能性があることが明らかになったと発表した。メタンは、二酸化炭素より強力な温室効果ガスで、メタンの挙動に関して新たに見出されたこのメカニズムを温暖化のシミュレーションモデルに加えれば、温暖化の進行の予測向上につながることが期待できるという。

 

■3年にわたる調査で判明

 

 各国の科学者や政府機関の専門家らを中心に組織されたIPCC(「気候変動に関する政府間パネル」)は、「温暖化によってシベリア地域が大量のメタン放出源になる可能性がある」と指摘しているが、その原因については、①気温上昇により永久凍土が溶け、中に閉じ込められているメタンが放出される、②温暖化によって増える森林火災の跡地に湖沼が出現し、そこが新たなメタン生成源になる―という2つのメカニズムが考えられてきた。

 今回の発見は、これらとは異なる第3のメカニズムにあたる。研究チームが中央シベリアの永久凍土地帯のカラマツ林で3年にわたり土壌のメタン吸収速度を調査したところ、年間降水量が通常より多かった年は、これまで考えられていたような吸収ではなく、逆にメタンの放出が認められた。観測された吸収速度あるいは放出速度は、亜寒帯林や温帯林に比べ、半分から10分の1程度と小さい値であった。

 降水量の増加によりメタンが吸収から放出に転じた理由については、降水量増加が土壌水分率の増加をもたらし、メタンが生成しやすい環境が形成されたことが考えられると指摘。実際に降水量が多く、土壌水分率が高い時ほど、メタン吸収速度は低下し、放出速度が上昇する関係が認められたという。

 土壌水分率の上昇については、凍土層が数十cmの深さから始まり、この凍土層によって下方への排水が妨げられることが原因の一つとみている。

 中央シベリアは温暖化によって降水量の増加が予測されている地域であり、新たなメカニズムの提唱は、IPCCのより精度の高い温暖化予測への大きな寄与が期待できるとしている。

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