
上の写真は、高塩濃度と節水条件下での生育状況で耐塩性・耐乾性を示す。下は、イネいもち病菌による病斑サイズの比較。縦軸の単位はmm。過剰発現イネの病斑は抵抗性(極強)品種の「戦捷」より小さく、極めて強い抵抗性を示す(提供:農業生物資源研究所)
(独)農業生物資源研究所(生物研)と愛媛大学は9月1日、植物体内で過剰に働くことで病原菌や塩害、乾燥に強いなど多様な機能を植物に与える遺伝子をイネから発見したと発表した。1つの遺伝子がこれほど多くの有用な性質に関係することがわかったのは初めて。地球温暖化に伴う気候変動への対応や、塩害地など過酷な環境条件での栽培が可能な新品種の開発につながる。
■厳しい環境下で育成の品種開発に有望
生物研の市川裕章上級研究員と愛媛大農学部の西口正通教授の共同研究チームが発見したのは、ヘムアクチベータタンパク質遺伝子(HAP2E)と呼ばれる遺伝子。イネが持つさまざまな遺伝子が働くときに、その働きを制御する一連のタンパク質「転写因子」の一つを作っている。
研究チームはこの遺伝子をイネから取り出すことに成功、さらに遺伝子工学の手法でこの遺伝子が過剰に働くようにした新しいイネを作り、その性質がどのように変化するかを調べた。
その結果、イネの収量に大きく影響する白葉枯病(しろはがれびょう)や、いもち病の原因である細菌感染に強い抵抗性を示すことが分かった。白葉枯病に対しては高度抵抗性品種として知られる「あそみのり」と、またいもち病に対しては同様に「戦捷」と、少なくとも同等の抵抗性を示した。
塩害に強い耐塩性については、栽培品種の「日本晴」が育たないほど高濃度の塩分(塩化ナトリウム)を含む栽培条件下でも旺盛な生育を見せた。また、水を制限して通常のイネが育ちにくい条件でもよく育つ耐乾性も示した。
このほか、イネの生育力の目安になる光合成速度を測ったところ、日本晴の1.5倍あることがわかった。また、イネの収量などに影響する、新芽から新しい茎がいくつできるかという分げつ数も日本晴の約1.5~1.7倍に増えていた。