（独）農業・食品産業技術総合研究機構の畜産草地研究所と（独）農業環境技術研究所は7月18日、北日本の水田地帯で夏季に発生が見られるミツバチのへい死（突然死）現象について、水稲の重要害虫「斑点米カメムシ」の防除に使われる殺虫剤が原因である可能性が高い、とする調査結果をまとめ発表した。
■夏の水田の薬剤散布期に重なる
平成21年の春に花粉交配用のミツバチ不足が各地で発生し社会的問題となった。例年、北日本の水田地帯では夏季に巣箱の出入り口（巣門）前で、へい死したミツバチが山状に積み重なる現象が起きている。今回の調査研究は、農林水産省が平成22年度から3年かけて実施した「ミツバチ不足に対応するための養蜂技術と花粉交配利用技術の高度化」事業の一環として、巣門前でミツバチがへい死する原因を解明しようと行ったもの。
調査は、合計415の巣箱が置かれた水田周辺の8つの蜂場（ほうじょう：養蜂家がミツバチの巣箱を置く場所）を対象に、平成24年7月下旬から1カ月間にわたり継続的に実施した。その結果、5つの蜂場で巣の入り口の前でのミツバチへい死の発生が認められた。へい死は、夏のイネの開花期以降に発生している。
へい死したのは全て成虫で、へい死したミツバチの殺虫剤を分析したところ、ネオニコチノイド系のクロチアニジン、ジノテフラン、フェニルピラゾール系のエチプロール、ピレスロイド系のエトフェンプロックス、有機りん系のフェントエートの各成分が検出された。また、全ての死んだハチから2成分以上の殺虫成分を検出。さらに、ミツバチが作った花粉団子（かふんだんご：団子に似た小さな花粉の塊）からも殺虫剤成分を検出された。それらは、「斑点米カメムシ」の防除用に水田に散布されていた殺虫剤成分であることが分かった。
一方、ミツバチ群から病気は検出されなかった。また、スズメバチによる被害も見られなかった。
こうしたことから、巣門前でのミツバチのへい死は、ミツバチが夏季にイネ花粉を集めに水田に向かい、そこで「斑点米カメムシ」防除のために散布された殺虫剤に曝されたことが原因となった可能性が高いとしている。
農研機構は、「ミツバチが水田で殺虫剤に曝露される際のより詳細な経路の解明や、殺虫剤への曝露を回避するための技術開発が重要」としている。
巣箱周辺で発生したミツバチのへい死現象。出入り口巣門の前に死んだミツバチが積み重なる現象は、ミツバチが巣箱から死虫を外に運び出した結果。これらのミツバチのほとんどは、薬剤被害によく見られる舌を出した状態だった（提供：畜産草地研究所）
