筑波大学は1月8日、「ベンゼン環」と呼ばれる亀の甲に似た形の極めて安定な分子構造の結合を、温和な条件下で開裂(切断)することに成功したと発表した。ベンゼン環は、ベンゼン核ともいわれ、6個の炭素原子が環状に結びついた分子構造のこと。多くの有機化合物がこのベンゼン環を基本骨格として持っており、その一つであるベンゼンは極めて過酷な条件でない限り開裂しないと考えられてきた。今回の成果は、その常識を破るもので、ベンゼンを構成するベンゼン環を120℃・常圧というこれまで考えられなかった温和な条件下で開裂することに成功した。
■シクロブタジエンの高い反応性を利用
この研究成果を挙げたのは、筑波大学数理物質系の関口章教授の研究グループで、ベンゼンと炭素原子4個からなる環状構造の炭化水素「シクロブタジエン(C4H4)」を120℃・常圧で接触させ、シクロブタジエンの極めて高い反応性を利用してベンゼンを活性化し、その六角形のベンゼン環の炭素と炭素の結合を壊して、ベンゼンをシクロブタジエンとアセチレン(C2H2)の2つのフラグメント(断片)に変えた。
シクロブタジエンは、反応性が高いために近づく物質とすぐに反応してしまう性質を持つが、その高い反応性を保ちながらシクロブタジエンだけを単離することにも成功している。
ベンゼン環を開裂するには、これまで200℃以上の高温と加圧が必要とされてきたが、その定説を覆したことになる。
筑波大は、「ベンゼン環をシクロブタジエンとアセチレンに開裂させる反応を世界で初めて発見した」といっている。
この研究成果は、1月8日に発行された英国の科学誌「Nature Communications」のオンライン速報版に掲載された。