(独)産業技術総合研究所、キヤノンアネルバ(株)、大阪大学は1月8日、小型で低消費電力のマイクロ波発振器の作製に道を開く発振素子を開発したと発表した。ナノコンタクト型スピントルク発振素子と呼ばれるタイプの素子で、課題であった高出力と高い振動安定性(高Q値)の両立を実現した。次世代ワイヤレス通信用マイクロ波発振器などへの応用が期待されるという。
■安定性は10倍近くアップ
近年携帯電子機器の高速化や無線信号の高周波化の進展に伴い、直流から交流を作るマイクロ波発振器の小型化、低消費電力化が求められている。水晶振動子などを用いる従来の発振器では所期の小型化は困難なため、マイクロ波帯の周波数を直接発振するスピントルク発振素子の応用が期待されているが、その実現には発振出力の高出力化と安定化が課題とされていた。
スピントルク発振素子は磁気的変化で電気抵抗が変化する磁気抵抗膜(強磁性体と非磁性体の積層薄膜)を用いた素子で、研究チームはこれまでに、巨大な磁気抵抗効果を示す磁気トンネル接合膜を磁気抵抗膜として用いた素子などを開発してきたが、今回、この技術を発展させ、発振周波数安定性をこれまでより10倍近く高めることに成功、高出力と高Q値をあわせもつナノコンタクト型スピントルク発振素子を開発した。
この成果は、LSI中に組み込むことが可能なナノスケール発振器や、超高感度で高分解能の磁界センサー、次世代ワイヤレス通信用マイクロ波発振器などへの応用が期待されるという。

ナノコンタクト型スピントルク発振素子の断面構造。 左は電子顕微鏡写真、右は、模式図(提供:産業技術総合研究所)