(独)農業生物資源研究所は12月5日、水田で育つイネのほぼ全遺伝子の働きを大規模に解析し、そのデータをもとにして、気象データと移植後の日数から任意の遺伝子の働きを予測するシステムを開発したと発表した。イネの葉を採取して、全遺伝子の発現量(遺伝子の働く度合いなど)のデータを解析し、遺伝子の変動を推定するシステムは、これまでに例がなく、世界初の成果となった。
研究では、2008年につくば市内の水田でイネ(「日本晴」と「農林8号」の2品種)を育成し、移植直後から穂が実をつける登熟期までの間に、461枚のイネの葉について遺伝子の発現量を解析した。さらに、この遺伝子発現量のデータと、気象庁が計測した気象データ(風量、気温、温度、日照、大気圧、降水量)や、移植直後の日数、採取した時刻をもとに、気象条件がどのように各遺伝子の働き方を決めているかという「発現ルール」を計算で明らかにした。
その結果、イネの葉で働くことが分かった遺伝子のうち17,193個について、「気象データ」「移植直後の日数」「時刻」を入力すれば、任意の遺伝子の発現程度を推定できるシステムを開発した。
翌2009年に、前年と同様なサンプルとして108枚のイネの葉を採取し、17,193個の遺伝子の発現を実測した。予測システムに、2009年の「気象データ」「移植直後の日数」「時刻」を入力して、遺伝子発現の程度を推定し、「実測値」とこの「推定値」を比較した。その結果、開発したシステムの信頼性は高く、非常に高精度に多くの遺伝子の働き方を予測できることを確認した。
こうしたシステムの活用で、過去の気象を用いて高温障害などに関連する遺伝子を特定することが可能になる。また、将来的には遺伝子の働き方を指標にすることで、作物の生育状況を正確に予測することが可能となり、施肥時期や農薬散布時期などを最適化することができると期待される。
No.2012-49
2012年12月3日~2012年12月9日