ES細胞などの分化制御に重要な遺伝子を発見
―様々な組織や器官形成で機能している可能性
:理化学研究所/米テキサス大学

 (独)理化学研究所は11月8日、様々な細胞・組織の元となる多能性細胞の分化・増殖に重要な役割を果す遺伝子「Vps52」を発見したと発表した。Vps52には万能細胞と呼ばれるES細胞(胚性幹細胞)の分化を促進する能力があることも分かったという。iPS細胞(人工多能性幹細胞)などの分化操作技術への応用、発展が期待できるとしている。
 これは、理研バイオリソースセンター動物変異動態解析技術開発チームの阿部訓也チームリーダー、杉本道彦開発研究委員、遺伝工学基盤技術室の小倉淳郎室長、米テキサス大学などの共同研究グループの成果。
 多能性細胞は、様々な細胞や組織に分化し、からだ全体を形成する能力を持つ発生過程初期の細胞。ES細胞もここから作られる。受精卵が分割を繰り返してできる胚(胚子ともいう。胎仔に先立つ状態)が子宮に着床すると、胚に存在する多能性細胞は、まず原始外胚葉という細胞に分化する。
 この分化に異常をきたしたマウスが半世紀以上前に見出され、「tw5」と名付けられている。tw5変異体は、染色体上の遺伝子の向きが逆転している染色体逆位などの異常を伴ったマウスで、原始外胚葉への分化も起こらないので着床後間もなく致死する。
 染色体異常があまりにも大規模なことからtw5の解析はこれまで困難だったが、共同研究グループは、遺伝子改変技術などを駆使して解析に挑戦、多能性細胞の分化の制御に関わっている重要な遺伝子を突き止めることに成功した。
 発見された原因遺伝子Vps52は、酵母では細胞内の物質輸送を担っている遺伝子であることが知られている。今回の研究の結果、哺乳類では細胞間相互作用を介して多能性細胞の分化や増殖制御の役割を果たしていることが明らかになった。また、分化に異常をきたすtw5変異胚のES細胞にVps52を導入したところ、分化が正常に進行した。このことからVps52はES細胞の分化を促進する能力があることも分かった。
 さらに研究グループは、血管形成などの発生にも深く関わっていることを発見した。これ以外にも、様々な組織や器官形成の重要な局面でVps52が機能している可能性が考えられるという。
 今回の成果は、組織と器官形成のメカニズムや情報ネットワークの解明、ES細胞やiPS細胞などの分化操作技術の開発などへの貢献が期待できるとしている。

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tw5変異胚で見られる原始外胚葉の発達異常。受精後6.5日のマウス胚。Aに比べBでは原始外胚葉を構成する細胞が激減している(提供:理化学研究所)