次世代の金属酸化膜トランジスタを開発
―厚さ5分の1、低消費電力でディスプレイ制御
:物質・材料研究機構/理化学研究所

 (独)物質・材料研究機構は10月17日、(独)理化学研究所と共同でテレビやスマートフォンなどのパネル型ディスプレイの低消費電力化・高精細化に有力な新型トランジスタを開発したと発表した。従来難しいとされていた薄膜型金属酸化物トランジスタを低価格金属材料のインジウムとタングステンで実現、製造コストの削減につながる。高精細画面を装備しながら頻繁な充電を必要としない高性能モバイル機器の実用化に道を開くと期待される。
 パネル型ディスプレイは、画面上に微細なアモルファスシリコントランジスタを配列、そのスイッチ動作によって液晶の光透過度を画素ごとに制御して画像を映し出す。しかし近年、高精細化やタッチパネル化の進展に伴って消費電力が急増、新しいトランジスタ材料の開発が求められていた。
 研究グループは今回、アモルファスシリコンに代わる材料として金属酸化膜をトランジスタ化することに成功した。酸化インジウムに酸化タングステンをごく微量添加することでトランジスタとして機能する優れたアモルファス金属酸化膜ができたという。
 これまでもインジウム、ガリウム、亜鉛を用いた金属酸化膜の開発が進められているが、材料中の酸素や水分の制御が難しかった。新技術では、特に制御が難しいとされるガリウムや亜鉛を使わず、インジウムとタングステンだけで優れた特性を持つ金属酸化膜トランジスタを実現した。
 新材料で膜厚10nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)のトランジスタを試作、特性を調べたところ、素子の微細化の指標となる電界効果移動度が従来のアモルファスシリコン薄膜の数十倍あるなど、実用化に十分な特性を持つことが確認できた。画像の高精細化が実現できるほか、通常50nmの膜厚が必要な従来の金属酸化膜と比べ薄く、大幅な材料コストの低減も可能。このほか、薄膜製作時の熱処理温度も100℃とこれまでの350℃に比べれば低く、省エネ化など製造効率の向上につながるという。

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試作素子の光学顕微鏡写真(提供:物質・材料研究機構)