“反発する電子”を統一的に説明する理論モデル構築
―金属酸化物の新電子材料開発に威力
:産業技術総合研究所/広島大学

 (独)産業技術総合研究所と広島大学の共同研究グループは7月30日、高温超電導などで注目される金属酸化物中の電子の特殊な振る舞いを統一的に説明できる理論モデルを構築したと発表した。電子同士が電気的に反発し合う様子を精密に観測、理論化にこぎつけた。磁場で電気抵抗が激減する超巨大磁気抵抗など特異な性質も持つ金属酸化物による新しい電子材料の最適設計や新機能創生が可能になり、発熱を抑えた省電力コンピューターなどの開発につながる。
 広島大学放射光科学研究センターの岩澤英明助教と島田賢也教授、産総研の相浦義弘主任研究員を中心とする研究グループによる成果。
 電子材料として広く使われる通常の半導体では、電子同士が反発する「電子相関」は無視できるのに、金属酸化物中では電子が反発して互いに避け合いながら動く。そのため、20世紀半ばに確立した「バンド理論」と呼ばれる従来の理論では、予測できない様々な現象が起きる。金属酸化物が示す誘電体や磁性体、半導体、超電導などの多彩な性質は、電子相関によって起きるとみられるが、これまで理論的には十分説明できなかった。
 そこで研究グループは、電子相関を考慮に入れた理論作りが必要と考え、放射光施設が出す強い紫外線を利用して金属酸化物中の電子の振る舞い(エネルギーと運動量)を精密に計測した。その結果、電子の振る舞いに、従来から電子相関によると考えられていたものと、従来は予測できなかったものの2つのパターンが見られた。今回初めて、これら2つのパターンを同時に矛盾なく説明できる理論モデル作りに成功した。
 今回の成果について、研究グループは、「新理論モデルは金属酸化物をはじめとする多くの物質に広く適用できる」とみており、新機能を持つ電子材料の設計などに貢献すると期待している。

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