耳の形成に関与する表皮側の遺伝子を確認
:筑波大学/高知大学/沖縄科学技術大学院大学

 筑波大学などの研究グループは5月15日、耳が形成されるときに表皮で働く遺伝子を突き止めたと発表した。受精卵から個体になる発生の過程で表皮と中枢神経系(脳)の遺伝子が相互に情報をやり取りして耳が作られることは分かっていたが、表皮側の遺伝子として初めて個体の前後軸などを決める遺伝子の1つが欠かせないことを確認した。幼生時に耳とよく似た構造を持ち脊椎動物に最も近いと言われる無脊椎動物のホヤを使った実験で明らかにした。耳の進化ばかりでなく、脊椎動物の進化の仕組みや道筋の解明につながると期待される。
 脊椎動物の耳は、個体発生の過程で脳が表皮に「耳の構造を作れ」という情報を送って表皮の一部が変形して作られる。脳から情報を発する仕組みは、遺伝子レベルで解明されているが、情報を受け取る表皮側については、十分わかっていなかった。
 そこで、筑波大下田臨界実験センターの笹倉靖徳准教授、高知大の藤原滋樹教授、沖縄科学技術大学院大学の佐藤矩行教授の研究グループは、幼生時にオタマジャクシ型をして体の両側に耳によく似た一対の構造を持つホヤを用いて、表皮側にどのような遺伝子が必要かを調べた。
 実験では、発生の過程で体の前後の向きや脚、目などの構造を作るのに決定的な役割を果たすホメオボックス遺伝子のうち、脊椎動物では主に中枢神経系で働き、ホヤにもある「Hox1」遺伝子に注目。突然変異を起こさせてHox1が働かないようにしたところ、耳に似た構造はできなかった。
 一方、突然変異個体の表皮でHox1の機能を回復させたところ、再び耳が形成された。ところが、中枢神経系でHox1の機能を回復させても、耳の形成は復活しなかった。
 このため、研究グループは「脊椎動物においてもHox1が表皮で働いて耳の形成に関与していることを示唆している」として今後、脊椎動物での解析が進むことが期待されるとしている。

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