高エネルギー加速器研究機構、(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東京大学は4月20日、日米共同による南極上空での宇宙線観測の結果、56億例の観測に成功、その結果、反ヘリウム核は見つからず、われわれの周りには反物質が優勢な世界は存在しないことが分かったと発表した。
宇宙初期に存在したはずの反物質は、現在その大部分が消滅し、所々に反物質が優勢な世界が孤立した状態で生き残っている可能性が指摘されている。宇宙での物質と反物質に関しては、素粒子物理・宇宙物理の根幹に関わる大きな問題となっている。そこで、高エネ研、JAXA、東大は、神戸大、NASA(米国航空宇宙局)、メリーランド大、デンバー大と共同で、反物質の生き残りの証拠をつかむ実験に取り組んでいる。
「ベスポーラ」と呼ばれる今回の実験は、南極の上空、高度36~40kmの成層圏に超電導スペクトロメーターという粒子運動量精密測定装置を積んだ気球を上げ、宇宙から降り注ぐ宇宙線を大気の影響を受けることなく観測し、その中に含まれるかもしれない反物質の1つ、反ヘリウムを見つけ出すというのが狙いで、世界最高感度での直接探索が行われた。
共同チームは2004年と2007年から8年にかけ、合計33日間観測した。この間にとらえた宇宙線は、合計56億例に達し、うちヘリウム核は4800万例見出されたが、スペクトロメーターの判別に掛かった反ヘリウム核は1例もなかったという。
今回の観測実験の結果、われわれの周囲における反ヘリウム核のヘリウム核に対する存在比は、最大でも1000万分の1以下であり、周囲に反物質の世界が生き残っている可能性はないと考えられるという。
No.2012-16
2012年4月16日~2012年4月22日