(独)産業技術総合研究所は4月16日、科学技術振興機構の課題達成型基礎研究の一環として、大阪大学との研究グループが人工ダイヤモンドを用い、世界で初めて単一光子を室温で電気的に発生させることに成功したと発表した。究極の通信技術として期待されている量子暗号通信の実用化開発を促すものと期待される。
通信の盗聴を完全に防げる量子暗号通信では、光子1個1個が情報の運び屋となるため、光子を必要なときに簡便、確実に発生させることができる単一光子源の開発が課題になっている。これまでに開発された量子ドットや有機分子を用いた単一光子源は、極低温に冷やしておく必要があったり、室温で単一光子を発生できてもレーザーによる光励起が必要だったりして、エネルギーやコスト面での制約が実用化の妨げになっていた。
研究グループは今回、ダイヤモンド中の「N-V中心」と呼ばれる窒素‐空孔複合体に着目、これを単一光子源として用い、デバイス集積化、低消費電力化が期待できるいわゆる固体素子による室温下での単一光子発生に成功した。
N-V中心は、ダイヤモンド結晶格子中の炭素原子と置き換った窒素原子(N)と、炭素原子が抜けた空孔(V)とが構成する結び目を指す。研究グループは、N-V中心が埋め込まれた高品質のダイヤモンドを発光層(i層)とし、ダイヤモンドにリンを注入して得たn層(電子過剰層)と、ホウ素を注入して得たp層(電子不足層)とでi層を挟んでpin構造の素子を作製した。高純度なダイヤモンドは、絶縁体のため電気は流れないが、pin構造とすることによりi層に電気を流せるようにした。
この固体素子に電流を注入したところ、単一のN-V中心からの発光が観測され、単一光子源として動作することが確認できたという。研究チームでは今後、光子発生の確実な制御や通信の高速化などに向け、素子作製法の改善、素子構造の最適化などを進めたいとしている。
No.2012-16
2012年4月16日~2012年4月22日