(独)産業技術総合研究所は2月27日、欧米などの7つの計量標準機関と共同で、科学の最も基本的な定数の一つであるアボガドロ定数を、これまでより1ケタ良い精度で決定することに成功したと発表した。
アボガドロ定数の高精度化は、国際キログラム原器と名付けられた分銅で定義されている質量の単位(kg:キログラム)を、アボガドロ定数などの基礎物理定数によって再定義することを可能にするもので、今年から新たな国際協力のもとで最終的な詰めの作業に取り組む。
アボガドロ定数は物質1モルの中に含まれているその物質の構成要素(原子や分子など)の総数を意味する数値。現在のアボガドロ定数は、質量数12の炭素原子の中の原子の数で定義されているが、高純度結晶シリコン(Si)を用いてアボガドロ数を高精度に定めることが技術的にできるようになってきたことから、産総研を含む世界の8つの計量標準研究機関が協力して2004年に「アボガドロ国際プロジェク卜」を立ち上げ、シリコンの安定同位体の一つである28Siを濃縮したシリコン単結晶を用いてアボガドロ数を決める作業に取り組んでいた。
プロジェクトではまず、28Siを99.99%まで濃縮して5kgの単結晶を作製、この結晶から直径94mm、真球度7nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)、質量1kgの球体2個を磨き出し、これを用いてアボガドロ定数の決定に必要な密度、格子定数、モル質量をそれぞれの機関が分担、協力して測定した。
このうち産総研は、新たに開発したレーザー干渉計により、質量1kgの28Si単結晶球体の形状を1nmの精度で測定、また正確な体積測定のための表面分析法を開発して球体表面上の酸化膜の厚さを精密測定、それらによって得られた値をもとに密度を決定した。参加機関の協力で得られた格子定数、モル質量の値と、密度の値を組み合わせることでこれまでより1ケタ高い精度でアボガドロ定数を決めることに成功した。
「キログラム」を基礎物理定数を用いて再定義する仕方としては、シリコン結晶から得られたアボガドロ定数に基づく今回のものと、光子のエネルギーと質量を関連付けるブランク定数を介して導かれるアボガドロ定数に基づくものの2案が検討されている。
後者については2007年に米国標準技術研究所(NIST)が今回と同程度の精度のデータを出しているが、両者のアボガドロ定数の値は7ケタ目で異なるため、昨年末に開いた国際度量衝総会は基礎物理定数によるキログラムの再定義について実施の方向性を決議したものの、再定義することは先送りした。
そこで産総研をはじめとした5機関は2012年から新たな国際協力をスター卜させ、数値の不一致の原因解明などを行い、再定義を目指すという。
No.2012-9
2012年2月27日~2012年3月4日