植物の特定の遺伝子の働きをなくし突然変異体を作る新技術を開発
:農業生物資源研究所

 (独)農業生物資源研究所は9月6日、DNA(デオキシリボ核酸)中の特定の塩基配列と結合するDNA切断酵素タンパク質(ジンクフィンガーヌクレアーゼ:ZFN)を利用した新しい技術を開発し、特定の遺伝子を狙ってその働きを無くし、意図的に植物の突然変異体を作出することに世界で初めて成功したと発表した。
 植物の品種改良(植物育種)の方法として、突然変異を利用した育種がある。それは、偶発的に生じる突然変異体の中から、目的の特性を持つ変異体を探すものだが、そうした突然変異体が見つかる頻度は極めて低かった。また、遺伝子の機能解明では、遺伝子の働きを無くして起こる変化を解析する技術はあるが、労力がかかる上に、求める突然変異体を必ずしも得られないという問題があった。
 近年、特定のDNA塩基配列を認識し、特異的に結合する性質を持つジンクフィンガータンパク質と、DNAを切断するヌクレアーゼタンパク質を組み合わせたZFNにより、染色体上の標的とする遺伝子を特異的に切断する技術の研究開発が進められている。しかし、植物個体の遺伝子をZFNで切断するだけで、突然変異を誘起した植物を作り出した例はなかった。
 同研究所は、今回、モデル植物として最も研究が進んでいるシロイヌナズナにZFN技術を適用して、特定の遺伝子のみの働きをなくした突然変異体を、意図的に誘起することに成功した。また、これまでZFNを用いて突然変異体を作出するメカニズムは、標的とする遺伝子のDNAの2本鎖を切断し、その後のDNAの修復過程で変異が導入されることにより起こるとだけ考えられていたが、DNA修復酵素の活性が弱い変異体にZFNを用いることにより、通常の植物の場合と比べて、切断した部分により大きな変異を導入できることも分かった。
 新しく開発した技術の活用で、今まで低頻度で偶発的に生じる突然変異によって得られていた変異体を、意図的に作ることが可能になった。この技術は、今後、植物の基礎研究や突然変異を利用した育種に利用され、育種の効率を画期的に向上させるものと期待されている。
 この研究成果は、6月29日に米国の科学アカデミー紀要(PANS)に掲載された。

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