炭素の原子膜「グラフェン」使いバンドギャップ持つ素子を作ることに成功
:物質・材料研究開発機構

 (独)物質・材料研究開発機構は8月30日、炭素原子でできた薄膜(原子膜)「グラフェン」を用いた電子素子実現のカギとなるバンドギャップ(禁制帯)を持つ素子を作ることに成功したと発表した。
 半導体素子は、材料であるシリコンの最小加工寸法を小さくすることでスイッチング速度の高速化と、回路サイズの微小化によるコストダウンを進めてきた。現在、スイッチ素子のサイズは、20~30nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)に達し、いずれは10nmを切るものと見られているが、微細化による性能向上は次第に難しくなってきている。
 そこで、シリコンに代わる次世代材料が求められる中で注目されているのがグラフェン。
 グラフェンは、炭素原子の層が重なってできるグラファイト(黒鉛)の一原子層分のことで、6角形の網の目のように規則正しく炭素原子がシート状に並んでいる。このグラフュエンは、電気特性に極めて優れており、電子移動度は従来の半導体より遙かに大きい。
 しかし、グラフェンは、半導体のようなバンドギャップがなく、スイッチング素子としては用途が限定されることから、グラフェンへのバンドギャップ導入が課題とされてきた。
 二層のグラフェンに垂直に電界を加えることでバンドギャップ導入が可能なことは理論的に分かっていて、光学的研究でその存在も示されていたが、電子素子として最も重要なバンドギャップはまだ明瞭に観測されていなかった。
 今回、同機構の研究者は、グラフェンに独自開発の技術で電界を加え、基礎特性を調べた。さらに、液体窒素温度(マイナス196ºC)から室温付近の電気伝導に注目、その温度特性からバンドギャップを持つ伝導体特有の温度活性型の電気伝導特性を見出し、バンドギャップの大きさを導き出した。
 この成果でバンドギャップを持つ素子を選択的に作り出すことに成功したもので、バンドギャップの制御可能な原子素子の検証研究が今後、大きく進展すると期待される。
 同機構は、現在、バンドギャップ制御可能な原子素子を用いて基礎的なロジック素子を試作、グラフェンの潜在的特性を調べる研究を進めている。

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