強磁性材料が示す「超磁歪効果」のメカニズムを解明
:物質・材料研究機構

 (独)物質・材料研究機構は5月11日、強磁性材料が小さな磁場を加えるだけで大きく伸縮する「超磁歪効果」のメカニズム解明に成功したと発表した。
 この解明は、高輝度光科学研究センター(兵庫・播磨科学公園都市)の大型放射光施設「SPring-8」の高角度分解能粉末X線回析装置を用いた実験に基づいて行われた。これにより強磁性材料の超磁歪効果と強誘電材料の高い圧電効果の起源を統一的に理解することが可能になったという。
 鉄などの強磁性材料は、全て磁歪効果を持つが、殆どのものが大きな磁場の下でも100万分の1から10万分の1程度しか伸び縮みしないので実用に使えない。しかし、1970年代に実用に耐える超磁歪材料が発見された。「ターフェノールD(Terfenol-D)」と呼ばれるこの鉄と稀土類の合金は、通常の磁歪材料より100倍も大きな磁歪効果(超磁歪)を示すばかりでなく、小さな磁場でも大きな磁歪を示すが、その理由はこれまで分らなかった。
 同機構の研究者は、強磁性体と強誘電体の類似性から「磁気の状態(磁石の強さを示す磁気モーメントの有無と方向)が異なっても結晶構造は変わらない」という磁性分野でのこれまでの常識に疑問を投げかけ、「精密な回析実験を行えば磁気状態の変化による結晶構造の変化が観測できる」と推測して、コバルトと稀土類の合金の強磁性体を用いて磁気状態と結晶構造の関係をSPring-8のビームラインに設置した粉末X線回析装置で調べた。
 その結果、この強磁性体の状態が異なることを示す境界線の組成において磁歪は最大になり、鉄の100倍もあった。これは、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)のような強誘電体が状態図の相が異なる境界組成で最大の圧電効果を示すのと本質的に同じ現象であることが分かった。
 この研究によって「結晶構造は磁性状態に依存しない」という磁性分野の従来の概念を覆すと共に、超磁歪効果の起源を解明、強誘電材料の高い圧電効果の起源と統一的に理解できるようになった。この新知見は、今後の超磁歪材料探索に指針を与え、現在唯一の実用超磁歪材料であるターフェノールDに替わる低コストの新超磁歪材料発見に繋がることが期待される。

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