高エネルギー加速器研究機構(KEK)は12月22日、千葉大学、東京大学の共同で強磁性を保ったまま金属から絶縁体になる仕組みを初めて解明したと発表した。磁性や電気伝導性が複雑に絡み合った物質の開発へ発展することが期待されるという。
解明したのは、「ホランダイト型」と呼ばれる酸化物(K2Cr8O16)における金属から絶縁体への転移現象。ホランダイト型酸化物は、新機能性材料として近年注目されている物質で、高温超電導や巨大磁気抵抗効果を示す強相関電子系の仲間の一つ。永久磁石のようにスピンの方向が揃った強磁性を保ったまま、電気を通す金属から電気を通さない絶縁体に転移することはこれまでに知られていたが、そのメカニズムは未解明だった。
共同研究チームは、KEKの放射光科学研究施設「フォトンファクトリー」(周長187mの円形加速器)を利用してこの物質の強磁性絶縁体状態の結晶構造を放射光により精密調査した。その結果、低温下でクロム(Cr)が4量体(4つのモノマー=単量体=が結合したもの)を形成し、格子構造に変化を生じさせていることが分かった。この観察結果をもとに理論計算したところ、4量体化したクロムが1つの電子を共有して「バイエルス転移」という現象を生じさせ、それによって電子が流れにくい絶縁体の状態になることを突き止めた。
今回の実験結果からホランダイト型酸化物「K2Cr8O16」は、スピンの向きを保ったままバイエルス転移する特異な例であることが分かり、この成果は今後、新たな物質の開発に発展する可能性があるとしている。
No.2011-51
2011年12月19日~2011年12月25日